男はしばらく僕のことを睨むような目で見ていた。
やがて「ふん」と鼻を鳴らすと、再び歩き出し、奥の棚をガサゴソと漁りだす。
手持無沙汰になった僕は、口を一生懸命に動かした。
この男は先輩の仲間。
そう仮定して、先輩と自分の思い出を勝手に語る。
「――……ですよ。僕ってこう、平凡なんで、こんな破天荒な先輩はちょっと憧れだったんすよね。自分じゃとても経験出来ない話を聞くのが楽しくて」
「………」
ぺちゃくちゃ、ぺちゃくちゃ。
『帰れ』って言われないように、一方的に話し続ける。
すると、男は一つの書類を手に取り、こちらに向かって歩いてくる。
僕の視線を捕まえながら、男はゆっくりと通り過ぎた。
「え、ちょっと!」
唐突も、唐突。
男はブウの首輪を取ると、ケツを軽く蹴ってブウを外に放った。
「自由に生きればいい。犬も、人も」
「……どういう意味っすか」
「思うように生きればいいだろ」
何の、話を。
この男は。


