「行ってくださぁい!もう時間がない!」
切羽詰まったような声。
アンバランスに、口元だけが笑っている。
デックのその顔は『あなたを勝たせる』と、そう言っているようだった。
地下の売人は「この木偶の坊が」と、笑い返す。
どこか満足したような顔をしたデックは、すぐさま飛び掛かり。
後ろからリンコを羽交い締めにした。
その隙に、地下の売人は速やかに車に戻り。
私の横のドアを足で蹴って、バタンッ!と、勢いよく閉ざした。
代わりに運転席のドアを開け放つ。
静かに座っていた運転手の男が、驚いたように声を上げる。
「……え?なんですか!?」
戸惑うその男を、地下の売人は強引に車から引き摺り出した。
地面に転がし、両手で背中を掴んで持ち上げ。
宙に浮かべたまま、振り子のように二、三度、大きく揺らした。
「お前、まだ元気でしょ?」
「なっなにを!?」
「活きの良いエサの方が、きっと食い付きがいい」
「……うあ、あっあッ……!」
勢いをつけたその身体を、リンコとデック目がけて、投げつけた。
――ドタンッ……!
と、三人の身体が、重たい音を立てて折り重なる。
同時に、姿勢を低くして走った地下の売人は、デックの細くて長い身体を速やかに回収した。


