分厚い上着を脱ぎ、チェアに引っかけた。 カウンターへと入り、多夜さんの置いて行ったグラスを洗おうと腕を捲る。 「………」 ふと、右腕に浮かぶ刺青。 龍に喰われたウロボロスと、目があった。 静寂のリビドー。 チクタク、と時計の針が、時間を刻む音が響く。 僕は苦しい顔をしたウロボロスに『ケンタロウ』と、呼ばれた気がした。 「……先輩」 そういえば。 僕が初めて”見るだけ”でいられなくなったあの日も。 先輩はここに、いなかった。