「大切なものだからだ」
平然とした顔で、似合わない言葉を口にする。
「命よりも?」
シトウから彼女を奪うということは。
紫藤さんの逆鱗に触れる。
それに触れたヤツに訪れるのは、死だ。
尋ねた僕に、地下の売人は迷うことなく答えた。
「命よりも」
その言葉に、今度は僕が、白ける番だった。
なんて……つまらない。
「libido(リビドー)」
「………」
「……って、意味知ってます?」
首を傾げる地下の売人。
告げた僕の声を、冷たい夜風がさらっていく。
「強烈な衝動です」
「………」
だからなんだ、という顔。
どうせ、わかりはしない。
ハナから、理解なんて求めていなかった。
僕は続けた。
「僕が紫藤さんを裏切ることはない」
「………」
「アテにしてもらっていたようで申し訳ないですが。カナコさんを助けたければ、勝手に死んでください」


