運命は残酷だ。
傷つけたくなかったのに。
だから遠ざけたのに。
そんな、紫藤さんの願いをあざ笑うかのように、カナコさんは街の混沌に呑み込まれていってしまった。
カナコさんが地下の売人に攫われた。
その時の紫藤さんは、見ていられないほど取り乱していた。
何度も「助ける」「今度こそ」と狂ったように繰り返しながら、カナコさんを探した。
自分が手放したこと。
その選択を強く、悔いるかのように。
それは奇しくも。
カナコさんに紫藤さんを『シド』と呼ばせた、多夜さんの願いが。
別の形で叶った瞬間でもあった。
悲劇は、繰り返された。
紫藤さんは知らないうちに、カエデさんとの歪な愛を、もう一度なぞっていた。
世界を狭め、依存させ。
意識を閉じ込める。
そして。
壊した本人が、その傷を治していく。
それは、カエデさんから受けた自分の傷を。
その痛みを、カナコさんに植え付けるかのようだった。
わかってほしいみたいに。
自分と同じ痛みを、カナコさんに与える。
……壊れたのは、愛だったのか、人だったのか。
もう、僕にはわからない。


