おかしな話だ。
紫藤さんは、どうしてもカナコさんを救いたい。
その気持ちは多分、彼女と出会い、瑞生さんの元に彼女を預けた頃から変わっていない。
紫藤さんはずっと。
彼女が傷つかないように、シトウに見張りを置き、遠くから守っていた。
尋ねたことがある。
『どうしてカナコさんをシトウで面倒見ないんです?』
そんなに気になるのなら、シトウに引き入れればいいのに。
その時の紫藤さんは、自嘲するかのように、こう言った。
『俺のそばが一番危ねぇだろうが』
気になる女に素直に手を伸ばすことができないのは、カエデさんという過去があるからだ。
自分の傷だって、広げたくなかったんだろう。
そんな中で、カナコさんの男が死に。
紫藤さんはとうとう、彼女に触れた。
曖昧にしかできない紫藤さんとの関係を、彼女は最終的に望まなかった。
紫藤さんは『それでいい』と言っていた。
我慢して、我慢して。
手を伸ばしかけて。
それでも遠ざけることを選んでいたのに。
今度はカエデさんが死に。
街で暴れ狂う紫藤さんに、カナコさんは『一人にはしない』と手を差し伸べた。
それでも、紫藤さんは彼女の手を突っぱねた。
今にして思えば。
あれが、紫藤さんの最後の意志だったんじゃないかと思う。


