ユキにはわからない。
千景の話はとても受け入れがたい。
だって、
「そもそも……お前がかぁこを攫った!!」
「紫藤があの人を狙ってたからだ。僕のテリトリーに隠した。お前じゃ守れないと思ったから」
「ふざけるなっ!」
「……結局。僕でも、守りきれなかった」
千景は苦い顔をする。
ユキはその後悔の顔つきを見て、千景からカナコを守りきれなかった自分の不甲斐なさを思い出すように、顔を歪めた。
「僕は昨日、彼女を助けに行った」
「………」
「だけど助けられなかった。『帰れない』って言われた」
「お前が本当にかぁこを傷つけたんじゃないとしたら……どうして」
そのユキの問いに、千景は遠くを見ながら、言葉を選ぶようにこぼした。
「彼女は紫藤に囚われている」
――『私は帰らない。……ここで守りたいの。大切なもの』
カナコが守りたいものなんて、千景には一つしか思い当たらなかった。
「……差し詰め脅されてるんだろ。そばを離れたらお前や、AnBarを潰すとかってね」
それを聞いた途端、ユキの目が大きく見開かれた。
震える唇をそっと口を開く。
「……どうして、……AnBarのために」
「大切だからだろ」
「たい……せつ?」
こくん、と千景が頷く。
その顔は少しだけ不貞腐れていた。
「あの人、何度も言ってた。『帰りたい』って。あそこは大切な居場所なんだって」


