納得がいかないのは千景も同じ。
イライラと拳を握り締め、今すぐにでも目の前のコイツをぶっ飛ばしたいと思う気持ちを抑え込んでいる。
「……乱暴?僕はあの人に指一本触れてない」
「だまれ」
それでも千景は、止まらなかった。
「だって、見ているだけで、声を聞いてるだけで。僕は幸せだった」
「………」
「それ以上なんて、望んだこともない」
彼女と同じ時間を過ごすだけで、あんなにも満たされていた。
そんな気持ちを口にすれば、不思議と荒れた心が静まっていく。
最後に一緒に眠った夜の、彼女の寝顔を思い出していた。
「……じゃあ、あの傷はなんだ」
「傷?」
「手首に残った痕も、首にあった噛み痕も。全部お前が――」
「僕じゃない」
ユキの言葉が止まる。
千景は、まっすぐにユキを見た。
「その傷をつけたのは僕じゃない」
「……嘘を、吐くな」
「紫藤だ」
ユキの身体から、わずかに力が抜けた。


