ユキの衝動。
背後でその声を聞いた潤は、やはりという思いと共に、息を呑んだ。
ユキは、千景と対峙するその瞬間まで、おかしなほどに冷静だった。
『かぁこを迎えに行く』と、今日という日に向けて淡々と準備を進める姿には、不気味なほど感情が抜け落ちていた。
カナコと出会う頃の、感情を知らないユキとも違う。
感情がないのではなく、何か得体の知れないものを、腹の底へ無理やり押し込めているような。
そんな異質な空気が、ずっと漂っていた。
潤は、そんな危ういユキを黙って見守ることしかできなかった。
下手に言葉をかけることすら、極限まで張り詰めた風船に針を刺すようで、恐ろしかった。
本来の作戦の手筈は、Z地区の戦力を削りながら、最後は全員で千景を追い詰めて、確保すること。
それなのに。
ユキは単身、千景を廃ビルの地下へと追い込み、人知れずこの部屋に閉じ籠った。
ユキの脳裏では、あの日のカナコの声が、今も痛々しくこびりついている。
――『酷いことを……されました』
――『怖いんです。だから私、行きます』
誰にも見せなかった。
誰にも触れさせなかった。
その感情が、今、目の前の千景へ向いていた。


