千景とユキが、静かに対峙した。
すると、デックは突然とてつもない力を得たように暴れ出す。
デックは焦った。
喉が、ひゅっと鳴る。
今、千景は万全の状態じゃない。
以前、彼はデックに零していた。
『アイツは強い』、と。
千景がこれまでに『強い』と誰かを評価したのは、デックの知る限りでは紫藤と、あの男――ユキの、二人だけ。
今の身体でやり合えば、いくら千景でも負ける可能性があると思った。
だから、なんとしても自分が盾にならなければならない。
「――チカ様ァアア!!!」
ひと際強い力でリンコを殴りつけ、地下の売人に駆け寄った。
「……行かせるかッ!!」
リンコは猛追し、デックの足を止めた。
――そのころには、もう。
「……ユキちゃん?」
リンコからは、二人の姿が見えなかった。
姿が、消えた……?
どこに行ったっていうの。
「………」
やっぱりだ、とリンコは思う。
作戦と違う。
ユキを探す視界の隅。
僅かに動いた、潤の影。
……頼んだわよ、潤。
リンコは心の中でそう託すと、決死の形相のデックの拳を、その顔面に食らった。


