そこに居たのは、いつものリンコじゃない。
見ているだけで、身が竦んでしまうほど……荒々しい姿。
リンコは立ち上がったデックに、――ゴウッ、と音が出る程、大きな拳を振り下ろした。
まともに食らってガクガクと脚を震わせながら、それでもその場に踏ん張るデック。
地下の売人は、そんな二人を冷たい目で眺めていた。
何か考えるように、じっと。
「………」
だけど、それも一瞬の時間だった。
「デック」
「あいぃ……」
「お前、ちょっと死んで」
「……よろこんで」
リンコの攻撃を受けながら合間に交わす、不穏な二人のやり取り。
なぜかデックは『死んで』の指示に高ぶったように、ひと際強い一撃をリンコに浴びせた。
「――ウゥッ……!」
デックの突くような蹴りに、リンコの身体が後ろに吹っ飛び、寝室から見えなくなる。
「んじゃ、逝ってきますぅ」
デックは壊れていく自分の身体を予感して、かつ、それを喜んだように口端を釣り上げた。
その異様な光景を目の当たりにした瞬間、私の視界がグルンと反転する。
気がつけば、私の身体は地下の売人の肩へ担がれていた。
彼は小さく「……チ、」と舌打ちをして、
「誤算だ」
と呟いてから、多少駆け足になって寝室を出る。
後ろからは、けたたましい物音と、獣のような声が二つ。
「……退ッけェェェェ……!!」
「『死んで』も通さないぃ……!!」
「……カナコッ!!」
私を引き戻そうとするような、リンコの絶叫を聞いたのと同時。
――ガチャン、と玄関のドアの閉じる音が、耳のすぐ近くで無機質に響いた。


