「……野間くん、シドを呼んでくれない?」
「………」
「シド、もう帰ってくる?」
「カナコさん、落ち着いてください」
「お腹が空いたの。野間くん、ここを開けて」
「だから、……この扉は……僕じゃ、」
「気が狂いそうなの」
「わかってます」
「シドに、会いたい」
呟いた瞬間、扉の向こうで――ダンッ!と、固いものを殴りつける音が響いた。
「どうかしたの?」
「どうもしてませんよ……僕は」
「大丈夫?」
不安になって声をかけると、今度は私の目の前の扉が、ドン……、と控え目に叩かれ、カタカタと小さく揺れた。
「カナコさん」
重く苦しげな声が、木製の扉を隔てて、すぐそばにあった。
「部屋に置かれてる水は、飲まないでください」
私の手には、飲みかけのペットボトル。
足元には、何本もの空のペットボトルが転がっていた。
私は特に何も感じないまま。
ただ、それらをぼんやりと見下ろした。


