恋の終電列車

 「あの…念の為お名前を聞いてもいいですか⁇私を助けてくれたお巡りさんという情報しかなくて…差し支えなければ…⁇」
 
 名前を聞くのも躊躇われてしまった。駅員さんではなく、お巡りさんだった事を聞いて、不躾に色々訊ねてしまうのは失礼なのではないかと躊躇してしまう。

 「あっ、名前も名乗っていなくてすみません。僕の名前は淀野亘《よどのわたる》です。歳は今年で28歳です。」

 警察手帳にには“淀野亘巡査長“と記されてある。警察の階級は分からないが、全くの新人のお巡りさんでない事は分かる。淀野さんは私に見せてくれた警察手帳を引っ込めると、私に向かって笑顔を見せた。

 「私は、松川穂波《まつかわほなみ》です。歳はもう30過ぎなので、恥ずかしいので伏せます。この近くのアパートに住んでます。」

 畏まって自己紹介するなんて何だか照れてしまう。淀野さんはそんな私の様子を見てやっぱりクスッと笑った。

 「僕も自宅はこの近くなんです。こんな所でまた会えるなんて奇遇ですね。」

 ニコッと歯を見せて笑う淀野さんは可愛いなと思った。私はついその笑顔にキュンとときめいてしまった。

 ついこの前フラれたばかりで惨めな思いをしたばかりの自分なのに、偶然また再会できたこのお巡りさんに不覚にもときめいてしまうなんて、何て自分は簡単な人間なのだろうと自分が嫌になった。

 「では、僕はここで」

 休日でオフの日の淀野さんはとても爽やかだ。一見して分かる体育会系の爽やか好青年で、凄く感じもいい。

 ただ酔い潰れてクダを巻いて泣き喚いた挙句、慰めの言葉までかけてもらって散々迷惑をかけてしまった私にそれ以上引き止められる術もなくて、私は結局何も進展もないまま「はい…じゃあ…」と言って別れた。

 淀野さんとまた再会を果たした私だが、名前と年齢と職業を聞いた以外何のアクションも起こせなかった自分が何となくやるせなくなってしまった。