恋の終電列車

 待ち合わせ場所に行くと淀野さんはもう待っていた。まだ10分前なのにもう待っているなんて、何て律儀な人だろうと感心してしまった。

 淀野さんは白いタンクトップ姿に黒い半袖のシャツを着てラフな装いだ。特別気合いが入っていると言うわけではないが、淀野さんらしい清潔な装いだと思った。

 私は柄にもなく半袖の花柄のワンピースを着てみた。白地にピンクや水色のあしらってあるカラフルなワンピースは、この歳になってからはあまり着なくなってクローゼットの奥に閉まってあった代物だ。

 20代の頃は着ると付き合っていた彼が喜んでくれたので、度々デートに良く着ていた。別に男の人受けを狙っているわけではないが、私自身も気に入っているこのワンピースに袖を通す度、私の心はルンルンと浮き足立った…。

 最近はそんな可愛かった頃も忘れて黒やグレーの暗めな色合いの服しか着ていなかったが、今日はあの頃の自分を思い出してこのワンピースを着てみることにしたのだ。

 そう思えたのも淀野さんのおかげだと思う。普段はキリッと一つに縛って束ねてある肩下の少しウェーブがかった髪を下ろし、化粧をバッチリと施してみた。アイラインにマスカラ、眉をバッチリ整えて、いやらしくない程度の赤い口紅を塗った私は、20代の頃のようにデートに胸を弾ませた。

 165センチある自分の身長は、男の人から見ると可愛くないと言われて嫌だったけれど、淀野さんはそんな事気にしなそうで、彼の隣にいるのは安心できそうだと安堵した。

 私はずっと、高めな背がコンプレックスだった。学生時代背が高くて羨ましいと女子達からは羨ましがられたけれど、男子が選ぶのは、結局小さくて可愛い低身長な女子達だった。

 「俺より背が高いなんて見下ろされてるみたいで可愛気がない…。」

 悪びれもなく言い放たれた言葉に傷ついた事が何度もある。男の人達が選ぶのは結局小さくて可愛い女の子ばかり…。その事実を思い知って以来、私は男の人から可愛く見られる事を諦めた。

 いつしか私にとって男の人は、甘えたり可愛い態度で接する対象ではなく、自分と対等な友達のような同士のような対象になっていた。

 「穂波って彼女って言うより、友達の延長みたい…。」

 今まで付き合ってきた人達にこの言葉も良く言われた事がある。女を感じない友達みたいな存在…。女の子扱いはされずに単なる同士みたいな友達の延長…。言われるたびに傷付いたが、もうそうやって扱われることにも32年生きてきてすっかり慣れていた…。