止まらない町、時、立ち止まった二人

 道の向こうから歩いてきた少女を見て、
「植本さん!」
「田中くん!」
 少女も、すぐ気づいてくれた。
 昔ながらの町並みに、そろそろ午後の日差し。
 少女――植本さんは、緑色のジャージに、紺色のブルマー姿。
 僕は、
「やっぱり、その格好なんだね」
 植本さんは、ちょっと照れ笑いをして、
「私、いつも部活やってたからね。やっぱり、この服装が一番、心に残ってるみたい。そういう田中くんは、学ランだね」
 僕は頭をかいて、
「運動、嫌いだったからなア。部活も、無線同好会だったしさ」
「アマチュア無線って、今もあるらしいじゃん」
「スマホとは違う良さがあるみたいだね。まあ、僕は、スマホもよく知らないけど」
 二人で、顔を見合わせて笑う。
「今日は、植本さんに会える気がしてた」
 僕が話題を変えたら、植本さんも乗ってきてくれた。
「私も、田中くんは来てると思ったよ」
「うれしいな。じゃ、行こうか」
「うん」
 肩を並べて、次の路地を左へ曲がる。
 行き先は、僕らの母校だ。
「この町も、久しぶり。田中くんは?」
「僕も、あんまり来なくなったかな。こっちに戻ってくるのも、なかなか大変でしょ?」
「それはあるよね。パワーというかさ。最初の頃は、夏休みには帰るようにしてたんだけど、だんだんね」
 植本さんも苦笑した。
 やがて。
「着いた、着いた」
 植本さんは、
「うわー、結構、来てるね。半分くらい?」
 校庭には、二十人くらいの集まり。飲み物を片手に、談笑している。
 僕が、
「あっ、多分、あの背広は委員長だ」
「だね。あのワンピースは吉田さんだ。お母さんになったんだね」
「本当だ、子ども連れてる」
 しばし、名前を当てて楽しんだ。
 にぎわいの中心には、立て看板。「県立 検見滝第二中学校 平成7年度卒業生 3年B組 30周年同窓会」。
 中年の大人たち。片隅のテーブルには、グラウンドの土にまみれた、二つのヘルメットみたいな物体。そばには、作文や、絵も置かれていた。恐らく、欠席者の分だろう。
 植本さんがささやいた。
「タイムカプセル、無事に掘り出されたんだね」
「僕らも、何か入れたかったね」
「まあね。でも、ほら」
 植本さんが指を差した。
「ありがたいね。覚えててくれたんだな」
 フフッと植本さんが笑い、
「私たち、出席者」
「そうだね」
 と、僕もうなずいた。
 テーブルの真ん中には、植本さんと、そして、僕の笑顔があった。
 黒く縁取られた顔写真だった。