サヨナラ天使

初夏。
気温は30℃を超える時もある時期。




自転車を漕ぐのはいささか悪趣味だと思う。
丘の上に立つ高校のせいで、毎朝汗だくになるのは修行なのかもしれない。



むわんと、嫌な匂いのする下駄箱を足早に通り抜けてクラスに行くと
これまた修行か。エアコンが壊れてるではないか。



「おはよー、真澄!」
「なにこれ、修行なの?」




同じクラスの親友である浪川秀治郎がケラケラと笑いながら肩を組んでくる。
暑いんだから離れてくれ。頼む。



カバンを自分の机の上に下ろすと、これまた修行が待ち構えている。
古文の教科書を家に忘れたではないか。


「さいっっあく。」
「はは!どんまい!隣のやつに見せてもらいな!」


浪川のような、単細胞…失礼、陽キャなら、その持ち前の明るさでなんとかなるだろう。
だがしかし。
僕のような根っからの静かでおとなしい、そういわゆる陰キャはそうとはいかない。
クラスの女子に話しかけることは愚か
妹にさえうまくはなしかけられずに疎まれる始末。



「…最悪。」



しかも、よりによって隣は。



「おはよう!物知りくん!今日は病み期かいっ?」




クラス1明るい女子、八城光希さん。
声量メガホンなのはもちろんのこと、感情の起伏も激しく、喜怒哀楽がはっきりしてる
浪川とはまた違った人種である。



「光希、教科書見せてやってよ。」
「あれぇ?忘れたの??いいよーっ!この八城さんが見せてあげよーうっ!」



ぐー!と、親指をピンと上に立てると、イタズラっぽく笑う。
あ、いや、悪戯っぽくと言うのは僕の主観であって
彼女は普通に笑っているのかもしれない。



「アイス奢ってねっ!」



いや、イタズラっぽくで正解らしい。