きみと最高のエンディングを





「来年夏放送予定の水瀬朔主演のドラマオーディションの結果が届きました」
「つ、ついに!!」
「不合格です」
「ですよねぇ、わかってましたぁ」

 いつもどおりの〝不合格〟に、もはや涙は出ない。私にとって〝不合格〟は当たり前だから。またかーって感じ。はあ。またか。

「今回はどこの大手事務所の女優さんが勝ち取ったんですか?橋本杏奈?今田美緒?」

 半分投げやりに質問する。

 あの水瀬朔が主演だもん。そこらへんの小さな事務所の無名女優よりも名のある大手事務所の女優の方が話題性もあるしなにより画面が映える。水瀬朔と並んでも霞まない、存在に食われない女優が選ばれるに決まってるのだ。

「それがですね、合格者ゼロらしいですよ」
「え、まじですか」
「まじです。コンセプトに合わんというか」
「あれま」
「だからまたオーディション開催するって」
「ええ。逆オファーした方が早い気が……」
「原石探しも兼ねてるとか」
「相手役と原石探しって大変そうですね」
「ということでエントリーしておきました」
「了解です。……ん?ちょっと待って。今エントリーって聞こえた気がしたんですけど」
「はい、そのとおりです。頑張りましょう」
「無理ですよ、また落ちます、どうせ」
「ゆきさん」
「はい?」
「ゆきさんは今崖っぷちなのわかってますか?」
「……」

 私、天羽(あもう)ゆきは三年間ほとんど女優としての仕事をしていない。今の事務所にスカウトされ、勝手に仕事が入ると思っていたのに現実はオーディションに落ちまくる日々。挙げ句『顔やスタイルはいいからグラビアに転向したらいいんじゃない?』と女優という肩書きすら否定されてしまったり。

「社長に『次仕事とれなかったら契約解除』って言われてましたよね。その〝次〟が今回のオーディションだったんですよ。落ちたって知ったら即契約解除されます。それでもいいんですか?」
「……よくないです」
「じゃあ頑張ってみません?私、まだまだゆきさんと一緒に仕事したいので、私のためにも」
「〜っ、八重さん」
「水瀬朔の相手役勝ち取ってやりましょうよ」
「絶対に勝ち取ります!やったります!」

 ———


 オーディション当日、なにやら会場はザワついていた。あの水瀬朔が来ているらしい。主演ドラマの相手役だもんね。重要ポジションだし、そらゃ気になるよね。いつもそうなのかな?

 ていうか——そのまま自分が審査したりして。


「えー天羽(あもう)ゆきさんね、よろしくお願いします。今日は急遽主役の水瀬さんにも来てもらってるから緊張すると思うけどあまり気を張らず演技に集中してね」
「あ、はい」

 パイプ椅子に座る水瀬朔は私を見るなり「よろしくお願いします」と会釈をした。慌てて私も返す。人気が故に横暴なのかと思ったら意外と律儀な人だった。確かに悪いウワサ聞かないもんな。

 そして始まった二度目のオーディション。下手くそだっていい。不恰好だっていい。私は崖っぷちから脱却するために全身全霊で挑んだ。


 ———

 私はいつになくソワソワしていた。なぜならオーディションの合否が発表される日だから。泣いても笑っても私の人生が今日で決まる。

 なんだかこれまでの三年間を思い出す。自分よりあとに入った新人女優がドラマ出演したり、賞を取ったり。オファーがあったと思ったらゴルフ番組のMCだったり。ゴルフしたことねーしみたいな。たとえカメラに映るのが一瞬でも、バーターだったとしても女優・天羽ゆきという名を残せたことを誇りに思う。頑張ったよね、私。

 まもなくして八重さんが現れた。スマホを持つ手が震えている。表情もどこか険しくて、ああだめだったのか、と瞬時に悟ってしまった。

「合否の連絡きましたか?」
「はい」
「……」
「……」
「八重さ、」
「受かりました」
「え」
「受かったんです」
「……ち、ちょっと、待って」
「ゆきさんが選ばれたんです!!」

 八重さんは目にいっぱいの涙を浮かべて私を抱きしめた。

 私が合格?水瀬朔の相手役に選ばれた?嘘じゃない?間違いじゃない?ドッキリ……はさすがにないか。需要ないもんな。

「ゆきさん、クビ回避です」
「クビ回避〜っ!!」

 正直、水瀬朔の相手役を勝ち取ったことよりもクビを回避できたことにほっとしている。

 それにしてもどうして私が合格したんだろう。錚々たる女優陣の皆様を差し置いて私が選ばれるなんてどう考えてもおかしい。コネなんてないだろうし。謎だ。……ま、いっか。