【1話からの長編大賞用】冴えなかった元彼が、王子様に変身して帰ってきた。






***



 ふわりと広がる純白のチュールが、窓から差し込む春の陽光を受けて柔らかく透けている。

 朝からプロのスタッフたちの力を借りて見違えるように仕上がった自分の姿を、悠里は信じられない思いで鏡越しに見つめていた。



 繊細なレースがあしらわれた綺麗なウェディングドレス。

 まさか自分がこれを纏うことができるとは想像もしていなかった。




 悠里は自分のウェディングドレスは理人に決めてもらおうと思っていたけれど、全部が一番綺麗に見えてしまうと言ってなかなか決めてくれない理人のせいで、悠里は三十着以上も試着を繰り返す羽目になったのは今ではいい思い出となっている。



 そんな中でやっと「これが一番悠里ちゃんに似合う」と言ってくれたこのドレスを着て、悠里は今日理人の花嫁になる。





 「悠里ちゃん、入ってもいい?」

 コンコン、と控えめなノックの音が控え室に響いた。



 「うん、大丈夫だよ」

 ガチャリと扉が開くと、タキシードに身を包んだ理人が姿を現した。

 前髪をすっきりと上げて、洗練されたオーラを纏っている理人は、溜め息が出るほど完璧な新郎の姿だった。それはスタッフの人たちが思わず理人を二度見してしまうほどに。


 けれど、そんな完璧な新郎は自分の花嫁の姿を見た瞬間、ピタリと動きを止めてバタンと勢いよく開けたばかりの扉を閉めてしまった。





 「えっ、ちょっと、理人くん!?」

 驚いて駆け寄ろうとすると、扉の向こうから「ちょっと待って、今はダメ……だからっ」とくぐもった声が聞こえてくる。



 「……理人くん? どうしたの?」

 「無理。……悠里ちゃんが綺麗すぎて、直視できない」

 「えぇっ!?」

 「やばい、鼻血出そう……」

 「ちょっと大丈夫!?あと少しで本番だよ!?」

 「あぁ、今日の式に舜とか男を呼ぶんじゃなかった」

 「なんで?」

 「悠里ちゃんのそんな綺麗な姿、誰にも見せたくない……また取られそうになるかも、でしょ?」




 扉越しに聞こえてくるなんとも情けない声に、悠里は思わず吹き出してしまった。

 会社では誰よりも優秀で、社内の王子様だなんて呼ばれている彼が、悠里の前でだけで見せるこの呆れるほどポンコツな素の姿。それは悠里が一番好きな理人だった。





 「何言ってるの、今日この日のために理人くん仕事の合間にすごく頑張っていろいろ決めてくれたでしょ?それ、無駄になっちゃうよ?」

 「そうだけど!そうなんだけど……っ。やっぱりもったいなくて」

 「……ふふっ。扉、開けるよ?」




 悠里がそっと扉を開けると、そこには両手で顔を覆ってしゃがみ込んでいる、世界で一番愛おしい夫がいた。

 悠里は少しだけ屈むと、彼の大きな手を優しく引き剥がす。





 「ほら、立って?もう皆が待ってるよ」

 「……悠里ちゃん。綺麗すぎて怖い」

 「私、この日を理人くんと一緒に迎えられて、本当に幸せだよ。私を見つけてくれて、選んでくれてありがとうね」






 悠里が満面の笑みでそう告げると、理人は観念したように立ち上がる。

 そしてそのまま悠里の腰を抱き寄せて、そっと額にキスを落とした。








 「俺の方こそ。……俺を、君のたった一人の王子様にしてくれてありがとう」




 悠里の新居でのプロポーズから、一年。

 対等に手を取り合った二人の未来は、どこまでも明るく輝いている。






 「じゃあ、行こうか悠里ちゃん。俺の大事な、世界で一番可愛いお姫様」

 「もう、ハードル上げないでってば!」






 差し出された理人の手を、悠里は迷うことなくしっかりと握り返した。

 重厚なチャペルの扉が開かれる。光が溢れるその先へ、二人は真っ直ぐに歩き出した──。








【完】