悪魔の生贄が救国の乙女になるまで


「いや。私がその借金を肩代わりしてやってもいい。その代わり、レイアをレーゲンスブルクで育ててくれ。」
意外な申し出にクララはキョトンとした表情でルイスを見た。
「レーゲンスブルク・・・?」
王都から馬車で1週間はかかる片田舎の町だ。

「今から話す内容は極秘情報だ。これを家族を含め他の者に話せば、お前の実家がどうなるか分かるな?家だけではない。可愛い弟が野盗に襲われて死んだりすることもあるかもしれないな。」
ルイスに逆らえば、実家を潰され家族の命も危なくなるぞと言外に告げてきたのだ。

青ざめるクララに、ルイスは悪魔と取り引きしたこと、代償はレイアであることを簡単に語った。
そして、悪魔がレイアを迎えに来る日までクララがレイアを養育することを命じたのだ。
「対外的には病弱な長女は田舎で療養生活をさせるということにした。金銭的な心配はない。定期的に送金するよう手配しておいてやる。」

ルイスはそう言うと、ベビーベッドに眠るレイアを見もせずに部屋を立ち去った。
翌日にはクララはレイアを連れてレーゲンスブルクに向かうことになった。

そして幼子を連れた慌ただしい旅を経て、2人はレーゲンスブルクの屋敷に到着したのだった。


以前から屋敷を管理していた男性と、地元民の家政婦や料理人などの助けもあって、馬車の中で想像していたよりすんなりと地元に溶け込むことが出来た。

レイアももともと穏やかで育てやすい子だったが、環境が変わってもぐずったりすることなくあっさりとレーゲンスブルクに馴染んでしまった。

悪魔がレイアを迎えに来るまで・・・。

ここに来た当初、その言葉は常にクララの頭の中にあった。
しかし、2年経っても3年経っても、何の音沙汰もなく侯爵家から何かを言われることもなかった。
3,4年を超えるころから、あまりその事は気にならなくなり、お金に不自由なく可愛い娘をのびのび育てられる環境にむしろ感謝するようになった。

神様、レイアード。お嬢さまに御慈悲を・・・。
悪魔の手よりレイア様をお救い下さい。

クララは毎週末、レイアを連れて欠かさず教会に通い、心の中で一生懸命神に祈りを捧げた。
熱心に教会に通うクララとレイアに、老神父ヨハンはとても親切にしてくれた。