悪魔の生贄が救国の乙女になるまで

父から悪魔の話を聞いた時、ソフィアはその内容には驚いたが姉自身について思うことは特に何もなかった。
今まで一度も会ったことがないため、気持ち的にはほぼ他人だ。
その時はむしろ、侯爵家のために犠牲になる運命の姉に同情すらしていた。

あれから数日後、姉が離れに到着したと連絡があった。
そして離れに入り姉を見た瞬間、何とも言えない苛立ちを感じた。

神聖力が高い者がまとう銀色の髪に青い目。
救国の乙女によく似た繊細な美貌。
姿かたちもさることながら、その身から滲み出る清廉なオーラに会った瞬間から圧倒された。
服こそ質素な物だったが、姉は美しかった。

歴史あるクルム侯爵家に生まれながら神聖力が低かったことは密かにソフィアのコンプレックスだった。

それに・・・

つい先日聞いた婚約者である第2王子マルクスと皇太子である第1王子フェリクスの会話が脳裏によぎった。
たまたまマルクスの部屋を訪れた時に、意図せず立ち聞きしてしまったのだ。

「リリアンヌの喪があければ新しい婚約者を決めないといけないでしょう?兄上はどんな女性がいいのですか?」
マルクスの声だった。
王太子は婚約者だった公爵令嬢のリリアンヌを急な病で半年前に亡くしたのだ。

ソフィアはノックしようとしていた手を止めた。
話の続きに興味がわいたのだ。

「そうだなあ。理想はやはり救国の乙女だな。清廉で儚げで守ってあげたくなるような姿なのに、悪魔に立ち向かえるような強さもあって。」
「ああ、わかります。ベルナー王国の男子なら一度は彼女に憧れますよね。僕もそうでした。」
「ソフィアとは全く違うタイプじゃないか?」
「ええ、まあ。なかなか理想と現実は違うものです。ソフィアには彼女なりの良さがありますし。」

それを聞いてソフィアは唇をかみしめた。

なによ!
理想と現実って、失礼な・・・。

ソフィアだって、本当は第2王子ではなく王太子の妃になりたかった。
しかし、ソフィアが年頃になった時には王太子には既に公爵令嬢であるリリアンヌという婚約者いたから諦めてマルクスにしたのだ。
それなのにマルクスとの婚約が決まった直後、リリアンヌが急逝したのだ。
もう少し待っていれば・・・。
あの時は悔しくて一晩寝付けなかった。

初めて姉を見た感想は”救国の乙女”だった。
大聖堂に飾られた乙女の絵姿から抜けだしてきたかのようだった。

そう思った直後、あの腹の立つ婚約者の会話を思い出しイライラした気分になった。
姉に会う前は親しくするつもりはないけど、少しくらい優しくしてあげてもいいかしらと思っていた。
しかし会った瞬間、そんな思いは吹き飛び、色々考える前に口を開いていた。

「まあ、品のない挨拶ですわね。お姉さまは貴族の挨拶をご存じないのかしら?それにその下品なドレスはどこで手に入れられたのかしら?まるで使用人が着るお仕着せのようですわ。」

ソフィアの言葉に戸惑った表情を浮かべた姉に、さらに腹立ちが強くなった。