「また七実先生、ぼーっとしてる。」
ハッと振り向くと、三沢先生が私の後ろに立っていた。
その視線が、私の目の前の小テストに注がれている。
「あんまり進んでないみたいだけど?採点。」
「あ、いえ、ちょっと悩んでしまって。」
「何を?」
三沢先生の目が、意地悪に笑っている。
「もちろん、採点です。」
「ただ夏目漱石かどうかを丸バツすればいいだけでしょ?悩むことある?」
「そ、そうなんですけど……」
狼狽える私を、眼鏡の奥の瞳が優しく微笑む。
「そうだ。七実先生、今夜空いてる?」
「あ、はい。」
「一緒に飯食いに行かない?クラスの事も話したいし。」
「……でも三沢先生、さっき予定があるって、ほのか先生に……」
「ああ。あれは嘘。」
「え?」
どうして嘘なんか……
「俺は七実先生と飯を食いたいなって思ってたから。それが予定。」
またそんな思わせぶりなことを平気で言う。
言われたこっちは、いちいちドキドキして期待してしまう。
それでも……嬉しいのだけれど。
「はい。お供します。」
私は三沢先生の眼鏡を見ながら、そう答えた。



