グラウンドのスタート地点に立った私は、小さく息を吸い、緊張をほぐした。
よーいどん、の合図が鳴り、私は借り物の紙が置かれている机に向かって走る。
机の上に置かれた紙を掴み、その文字を読んだ途端、頭が真っ白になった。
そこには「眼鏡を掛けた男性」と書かれていた。
どうしよう。
三沢先生のところに行くのは、恥ずかし過ぎる。
でも別の男性の腕を引くのは、もっと嫌。
他の先生が走り出し、目的を果たしていくのに、私は固まったままその場所から動けない。
2年A組の生徒達が、大きな声で応援してくれる。
「青木せんせー、どうしたのー!」
「頑張れー!!」
びくともしない私に、放送部の生徒がマイクを持って私に近寄り、お題の紙を読み上げる。
「青木先生は『眼鏡の男性』を引いた模様です!」
歓声がグラウンド中に響きわたる。
……そして誰かが、私の腕を掴んだ。
その声が、耳元で低く囁く。
「俺でいいよな?」
私は潤んだ目で、三沢先生に大きく頷いた
三沢先生は私の手をしっかりと握り、
ゴールまでゆっくりと伴走してくれる。
その手のひらは、大きくて温かかった。
そして私は、三沢先生と無事ゴールした。



