二人だけの秘密

「ここが今日から山田さんの席となります」

少数精鋭の部署なのか、用意されているテーブルと椅子の数がそこまで多くない。
私を含め数人のみ。他の人が誰なのか気になった。

「あの…、他の方はまだ来られないのでしょうか?」

九条さんと二人っきりの空間に耐えきれなくて、間を繋ぐために質問してみた。

「一番最初に声をかけたのは山田さんなので、他の方は明日以降、こちらの部署に移動してきます」

つまり今日だけ九条さんと二人っきりのようだ。

「そう…ですか。分かりました」

どうしよう。いきなり九条さんと二人っきりなんて耐えられる自信がない。
終始緊張しっぱなしで、仕事が手につきそうにない。
九条さんの声を聞き放題なのは天国だが、推しと二人っきりという空間は生き地獄だ。
この生き地獄に耐えながら、私は毎日推しと仕事をしなくてはならないのかと思うと、これから先の私の理性が保つか心配だ。

「山田さん、今日はとりあえず自分の荷物の荷解きをお願いします。それが終わったら山田さんにお願いしたい仕事があるので、お願いしてもいいですか?」

異動早々、仕事を任せてもらえることは大変有難い。
でも今の九条さんの“お願いしてもいいですか?”の言い方はずるい。甘く響く声に私の心は陥落した。

「は、はい!承知致しました。私にお任せください!」

声が裏返った。九条さんの前では醜態ばかり晒してしまい、恥ずかしい…。

「そんなに緊張せずに、肩の力を抜いて仕事をしてくれると嬉しいです」

九条さんは気を遣ってそう言ってくれたが、今は九条さんの優しさよりも、甘く囁くような優しい声色に私の耳と心はどんどん沼に堕ちていた。