限界王子様に「構ってくれないと、女遊びするぞ!」と脅され、塩対応令嬢は「お好きにどうぞ」と悪気なくオーバーキルする。

 高級そうな生地で作られた体に沿った服を身にまとい隙のない出で立ちは、彼一人たった一代で大きな商会を育て上げた百戦錬磨の商人のイーサンらしい。

「そんな、距離のある他人行儀な対応をするなよ……俺たちは、将来的に結婚する仲だろ?」

 余裕な態度と人を試すような笑み、こんな所で何を言うつもりだと私は立ち上がった。

「っ! もう、良いわ……早く、こちらへ」

 小声で言った私はイーサンの答えを待つことなく、彼に背を向けて歩き出した。

 イーサンは世界を股に掛ける、大富豪の商人。私と同じように……王妃に雇われ彼女には頭が上がらない。同じ到達点を目的とする仕事を任され、逃しがたい報酬を約束された立派な共犯者だ。

 人目を避け客席の裏側の廊下へと行き振り向けば、イーサンは予想通り私の後を追って来た。

「……イーサン。良い加減にして。私たち、まだ他人のはずだけど?」

 私は王太子ギャレット殿下の婚約者……そして、爵位を叙爵されたばかりの目の前のイーサンに恋をして、涙ながらに彼を捨てるはずの女。

 けれど、それはまだ未来の話のはずだ。