あの時間を忘れる方法が あるなら

『早く乗れ』

「ッ‥はい‥すみません」

荷物を運転手の方に取られると、開けられた後部座席に乗り込み、なるべく川崎さんと距離を置き窓際に寄る

そんな様子をジッと見つめていたのか、彼は彼女の行動に眉間に皺を寄せた

『恋人のフリをするなら、外でこんな態度はやめて欲しい。』

えっ?

思っても見ない言葉に思わず彼の方を振り向いてしまうと、暗い車内にも関わらず切れ長の瞳が私を捉えて離さない


「で‥でも‥お互い愛さないのに見えない場所で必要でしょうか?」

彼が愛しているのは莉奈さんだけ。
私は契約に従って必要な時にだけ彼女のフリをすればいいはず

戸惑いを隠しきれずそう答えると、突然力強い腕に引き寄せられあっという間に私の体が彼の体にもたれるかのように触れてしまった


「か、川崎さん!?」

『‥‥柊だ』

「ッ!呼びますッ‥から‥‥しゅ‥柊さん!離して下さい!」

男性とお付き合いがなかったわけではないけれど、アルバイトを優先していたからか、あまりこういうことに慣れていないのだ

こんな服装で万が一スーツを汚してしまったら弁償など出来ない‥‥

どういうつもりでこんなことをしてきたのか分からず焦って離れようとすれば、柊さんの指が私の顎を捉え上を向かせた


『公の場でこうなったら君はどうする?愛さないとは言ったが、恋人らしいことをしないとは言っていない。』

ドクン