この時間を忘れる方法があるなら

「莉奈さん‥‥私は‥‥」

ガチャ 

突然背後から聞こえた音に体が強張り振り返ると、ゆっくりと開かれたドアの向こうから現れた柊さんに目を奪われてしまう

‥‥タキシードなんて見慣れてないけれど、そんな私でもそれがとても似合っていて素敵な事くらい分かる

整った彫刻のような顔立ちに、スタイルの良さを更に際立てるオーダーメイド調の黒のタキシード姿を見慣れなくて、そこから目が離せない

すると、柊さんも私に気付き、同じように私をジッと見つめどれくらいの時間か分からないが暫く見つめ合ってしまった



『‥‥‥想像よりずっと綺麗だ‥』

「ッ!」

私に向けられる柔らかくて優しい表情に、心音がどんどん大きくなり、一気に顔に熱を持つ

一歩いっぽこちらへ向かってくる彼から目を離せずただただ固まっていると、目の前まで来た彼がフッと小さく笑った

どうしよう‥‥褒めて貰ってとても嬉しいから何か言わないといけないのに、目の前の彼が素敵過ぎて自分の安っぽい言葉では駄目な気がしてしまう


目頭がツンと熱くなると、そこに溜まりかけた涙を見られないように背を向けてしまった

『どうした?泣くことは言ってないだろう?』

「ッ‥‥こんな自分を見てそんな事を言ってくれる人がいたんだな‥っ‥て‥すみません‥」

『本心だから自信を持て‥今日の君は誰よりも素敵だよ。誰にも見せたくない程にね』

柊さん‥‥

後ろから両手で優しく抱き締められた事にまた更に熱を持ちつつも、シダーウッドの香りに包まれ強張っていた体の力がほぐれてゆく

いつの間にか、この香りに癒されている自分がいる‥‥

でも‥莉奈さんの眠っている部屋の香りもこの香りだと思い出すと、何処にも出せない感情をそっと胸の中に押し込めた