この時間を忘れる方法があるなら

「えっと‥‥年齢は私より少し若そうに思えますが、髪は明るめの髪色で肩より少し短いボブスタイルな感じです。それと、簡単に言えばとても美人で可愛らしい人だと思います」

ドアモニター越しだから顔立ちはハッキリとはわからないものの小さなお顔にパッチリとした目だけは分かり可愛い人だと感じた

会社では見かけたことはないから社員さんではないと思うし、絶対に配達員ではなさそうだ


『‥‥‥分かった。君は何もしなくてもいい。すぐに俺の方で対処する。』

「分かりました、よろしくお願いします‥
ではお疲れ様です。」

『フッ‥‥休みの日まで仕事モードなんだな。
今日1人で眠れなかったらまた電話してくると
いい。‥それじゃあ』

「ッ!」

思い出したくないのに、今朝同じベッドの中で耳元で囁かれた声を思い出してしまい、電話を切った後暫くソファに突っ伏した

演技だと分かっていても、あの顔と醸し出す雰囲気、そしてあの声色がプラスされると、どんな人でもきっとこうなるに違いない‥‥

確かに意識が飛ぶほど爆睡した事は事実だから何も言い返せないけれど、代役に言う台詞じゃない気がするんだけどな‥‥

1人で悶々としつつも、明日の事を考えながら過ごし、柊さんが手配してくれていた全身のエステとフェイシャルを受け明日に備えた


まさかそこで、さきほどの女性と会う事になるなんてその時は少しも思ってもみないでいたそして、次の日

夕方、指示された場所に行きドレスアップとヘアメイクを施して貰うと、運転手さんに待ち合わせのホテルまで送って貰う事になった

『緊張されなくて大丈夫ですよ。よくあるパーティーなので、堂々とされていればいいんですよ。とてもお綺麗ですから』

準備を終えてお店から出ると、柊さんの専属の第一秘書である八雲 憲久(やくも のりひさ)さんもそこに居て驚いたが、1人で居たらきっと不安になっていたと思うから見知った人の存在はとても安心出来た

「ありがとうございます‥」

まわりには莉奈さんとして接して貰っているけれど、八雲さんだけは私達の契約の事を唯一知っている方で、そのこともあり結愛にとっては心強い信頼できる人でもあった

似合っているかは置いておいて、綺麗と言われて嬉しくないはずもなく、少しばかり照れてしまったが、肝心な柊さんにどう思われるかはまだ不安だった


『こちらでお待ちください。もう少ししたら社長が来られると思いますから』

「はい、八雲さん、ありがとうございます」

ホテルの個室に案内されると、ソワソワと落ち着かなくて高層階の窓辺から景色を眺めながら緊張だけはどんどん増すばかりだ

柊さんが選んでくれたドレス‥‥

こんな素敵なドレスを着ている私を両親が見たらきっと驚くと思う‥‥

目の下にクマを作り、艶のない髪を一つに束ねていたあの頃が本当の私なのに、今はその面影も随分となくなってしまったから

こんな状態があとどれくらい続くか分からない不安もあるし、嘘をつくということは、ずっとバレないかビクビクしながら生きる必要もある

でも‥‥私を守ると言った彼を信じたい‥
いや、信じないと足元から崩れるのは目に見えている