あの時間を忘れる方法が あるなら

『莉奈‥』

抱き締められながら何度もそう呼ばれ、柊さんが離してくれるまで瞳を閉じてその温もりに包まれていると、あまりの心地良さにそのままその腕の中でウトウトと眠ってしまった

ここで過ごすようになってから眠れていないわけではなかったけど、ずっと緊張して不安だったんだと思う‥‥

だからこそ、緊張の糸がほぐれるかのようにどんどん意識が奪われてしまい、自分から縋るように身を任せた

『‥‥‥眠ったのか?』

「‥‥ん」

『‥‥‥莉奈?』

「‥‥‥‥‥」

『フッ‥‥‥無防備な人だ‥‥おやすみ‥‥
‥‥佐々木 結愛さん』

優しく髪を撫でる手が頬に触れ、目を開けないといけないとは思うのに、瞼が重くて開かない私は、唇に触れた熱を最後にそのまま深い眠りについた






『今日の夜は出張先で会食があるからホテルに泊まる。明日はここに迎えが来るから君はそのまま予約してあるサロンに行ってから来るといい』

練習を兼ねてネクタイをいつものように結ばせて貰うと、私が広げた背広に柊さんがゆっくりと袖を通してゆくのにも慣れてきた

今日のダークグレーのスーツもそれに合わせたシルバーのネクタイもとてもよく似合っていてスタイルの良さを一段と引き立てている

「分かりました」

どうしよう‥柊さんの目が見れない‥‥

今朝、目が覚めると温かい温もりに包まれていることに気付き、それが柊さんの腕の中だった

何事もなかったかのように朝食を食べ終え今に至る彼に気付かれないようになるべく普通に接したいのに意識し過ぎてしまう‥

まさかあのまま朝まで柊さんのベッドで眠ってしまうなんて‥‥‥