ハナコトバマジック!

「フラワークリスタル!」
 さけんだ瞬間、ぱぁっとクリスタルが光り出す!
「カスミソウ!」
 うえぇっ、口が勝手に動くよっ!
 わけもわからず気づいたら、まわりが真っ白空間に。
  
 ——ここ、どこ!?
 さっきまで公園にいたはずじゃ、
  
 困惑している間にも、フシギ空間は変わっていく。
 光の地面に、カスミソウが!
 どんどん咲き乱れていく……!
 ほんのりと、甘い香りにつつまれて——。
 わたしのお洋服、真っ白ワンピになっちゃった!
 
 ——なっ、なにっ!? 制服はっ!?
 わけもわからず混乱中。
 でも、それだけでは終わらなかった!
  
 わたしのまわりに、カスミソウ畑。その一輪一輪から、ぽわっと光が飛び出した!
 シャボン玉みたいな、たくさんのぽわぽわ。集まって、だんだんリボンを形作っていく……!
  
 ヒラヒラリボンに、たくさんのフリル。
 パニエがふわっと、宝石がキラッと。
 お花の力で、どんどん飾り付けられていく。
 白いコーデに、パステルピンクのデコレーション!
  
 ——かわいいっ! お花のおひめさまみたい!
  
 さっきまでの、シンプル真っ白ワンピース。
 それがたちまち、ふわふわキラキラに大変身!
  
 頭の上がピカッと光る。
 カスミソウのカチューシャ!
 ふわふわ降ってきたカチューシャが、ティアラみたいにちょこんとのっかる。
 同時に、お下げだった髪がスルスルスルっとほどかれて——。
 ふわっと髪が伸びちゃった!
 こんなに長いの、初めて……!

 感動してる間にも、キラキラなにかが飛んでくる!
 ——ステッキ!
 流れ星みたいなそれを、パシッとつかんだ。
 胸の中、じんわりとあったかい感じが広がっていく……!
  
「フラワーヒーラー・カスミソウ! あなたに幸福が訪れますように!」
 そう言って、わたしはにっこりほほえんだ。
 ……。
 …………!?

 フラワーヒーラーって、なに!?
 
 ――という感じで、冒頭のシーンにつながるわけです。

 よくわからないけど、変身しちゃったっ。
 ロングヘアに、かわいいドレス。
 さっきまでの制服とは、似ても似つかない姿。

 わたしのまわりも、いつの間にか公園にもどってる。
 妖精さんたち、白髪の子、怪人さんもいる。
 これは一体、どういう状況……?
 
「「フラワーヒーラー!?」」
 すると、二人の妖精さんが同時におどろきの声をもらした。
「あっ、あのっ、なにか知ってるんですかっ!?」
 すると、ヒマリちゃんが、おびえるようにツインテールをゆらした。
「あ〜……」
 ツユくんも、言い淀んで目をふせる。
「うん。名前だけね〜……」
 そっか、名前だけ、か……。
 
 怪人さんたちなら知ってるかな。
 と、二人のほうに目をやると——。
 白髪の子は、目をまんまるに見開いていた。怪人さんも直立不動。全く動かない。
 特に男の子、すごーくびっくりしてるみたい。
  
 ——あ、あれ……?
 まさかみんな、なにも知らない……!?
  
 わけのわからない現象に、しーん……と沈黙が訪れた。
 
 ——ちょっとまって、整理しよう!
  
 フラワーヒーラーっていう、ナゾの存在。
 それって多分、魔法少女……だよね?
 だって変身しちゃったし、ステッキだって持ってるもん。これで魔法を使うんだよ、多分!
 怪人だって目の前にいるし、わたしが戦えばいいってことだよね!
  
 ――いやっ、ムリムリムリっ!!
 あんなのと戦うなんて、怖すぎるよっ!!
 なんとかして、平和に解決できないかな……?
  
 むむ〜っと考えこんでいたら、
「桜怪人、ここは任せた」
 男の子、どこかへ向かって歩きだした。
 えっ、帰っちゃう……!?
 って、待って! まずは話し合いをっ!!
 ……引き止める間もなく、男の子はワープホール(!?)を作って消えてしまった。
  
 そんなぁ……。
 で、でも、怪人さんは残ってるもんね!
 勇気を出して、話しかけてみよう……!

「あのっ、怪人さん、」
 ……。
 話しかけてみたけど、反応ナシ。

「……あっ、あなたの目的はなんですかっ?」
 怪人さん、フリーズ。気をつけの姿勢で動きません。
 ええと……どうしたんだろう。
 読みこみエラー……とか?
「もっ、もしもーし?」
 怪人さんの目の前で、手をひらひら。
 
 やっぱり、反応は無——。
「ウガーッ!!」
「いやーっ!!」
 怪人さんが動き出したっ!
 わたし、怖くて思わずその場から逃走!!
 
 ……全力疾走のはずなのに、またもや足がカメさん。
 こっ、こういうのって、走るの速くなるんじゃないの!?
 走りながら、ゼェハァいってる。
 うわぁぁぁ、もうムリだよぉ……。

 すると突然、ビュオォォォッと強い風が吹いた。
 一緒に、ピンクの花びらがぶわぁぁぁっと舞う。
 これっ、桜吹雪!? うえぇっ、なにも見えないよっ!
 まさか、怪人さんの攻撃とか……?
 向こうは戦う気満々ってこと!?
  
 ど、どうしよう……。
 わたし、半分涙目。
 話し合いするのはダメそう、だよね。
 だったら——もう戦うしかない、ってこと……!?
  
 ごくりとつばを飲み込んだ。
 戦うの、すごく怖いけど。
 ステッキ、持ってる。
 わたしにしか、解決できない……。
  
 えーい! もうヤケクソだっ!!
「なんか出ろーっ!!」
 ステッキを思いっきり振ってみる。
 これで、怪人さんにダメージを……!
  
 ……。
  
 ……あれ?
 
 桜吹雪、止まない。
 ステッキ、なにも出ない。
 状況、変わってない。
  
 ——なんで!? 
 変身したら、魔法使えるんじゃないの!?
 試しにもっと振ってみる。うでが取れちゃいそうなくらい、ブンブンブン!
 
 ……ウソでしょ。
 何度振っても、なにも出ない。
 うんともすんとも言わないよっ!!
  
 ということは——ただ、コスプレしただけ?
 着替えただけの一般人が、怪人さんに勝てるわけない。
 逃げなきゃ……!
 
 走り出そうとした、その時。
「わっ!」
 足がもつれて、地面にズザァァァッとスライディング!
 ヒザには、すり傷ができちゃってる。

 いたたたた……。こんなにハデに転んだの、何年ぶり?
 っていうか、今のわたし、すごーくみっともない気がする。
 魔法使えないし、運動神経悪いし、すごい勢いでコケたし。
 こんなへっぽこ魔法少女(?)、他にいるのでしょうか……!?
  
「だいじょうぶなのです……?」
 ヒマリちゃんが、ツインテールをゆらしながら飛んできた。
「だっ、だいじょぶデス!!」
 わたし、あわてて立ち上がる。
 小さな傷くらい、なんてことないよ!
 それよりも、だれも戦いに巻きこみたくないもん!
 
「それならよかったのです!」
 ヒマリちゃんが、太陽みたいに笑ったのも束の間。
 ビュオォォッ!
 すっごく強い風。
 うわぁぁっ、飛ばされる〜っ!

 妖精さんたちが、わたしの肩につかまった。
 まさかこれも、怪人さんの攻撃!?
 髪をバサバサなびかせながら、飛ばされないよう足に力を入れて——ふと、気づいた。
 
 あれ。痛く、ない……?
 
 いや、ヒザは超痛いんだけど!
 怪人さんの攻撃、全然痛くないんだ。
 風が強いだけ。
 逃げるのに必死で、ぜんぜん気づかなかった。
 だったら、このまま放っておいても——。
 いやっ、ダメだ! それだと桜が散っちゃうよ!!
  
 とにかく、まずは風をなんとかしないと。なにか防げるものないかな?
 わたし、カバンをガサゴソ。
 うえぇっ、周りがピンクで見づらいっ! 桜吹雪はもっときれいなのがいいよっ!
 文句を言いながら、あるものを探して……よしっ、見つけた!
  
「怪人さんっ!」
 わたし、カバンを片手に仁王立ち。
「な、なにするつもり?」
 肩につかまったツユくんが、心配そうな声をあげる。
 フッフッフ……秘密兵器だよっ!

 手に持った、ピンクのかわいい棒?
 これを、風向きに向ける!
「必殺――」
 いくよっ、怪人さん!
 
「折りたたみ傘っ!!」
 そう言って、バサッと一気に傘を開く!
「!?」
 もちろん、技名の通り折りたたみ傘。これで風を防げるはず!!
「魔法じゃないんだね〜」
 ツユくんが、ボソッとつぶやいた。
  
 うぅっ、風が強いっ!
 これ以上勢いがすごくなったら、傘壊れちゃうんじゃないかな!? いやだよっ、これお気に入りなのに!!
 他にも最悪の事態を想像して……お、オソロシイ!
 風、早く止めてもらわないと!
  
 ……どうすれば?
 
 今気づいたけど。
 わたし、傘で防ぐことしかできなくない!?
 魔法もダメ。多分、物理攻撃もダメ。
 着替えただけで、なんにもできない。
 うえぇっ、どうしよう……話し合い?
 それができたら苦労しないんだけど……。
 
 怪人さんの姿は、桜吹雪で見えない。
 隙を見て何回か話しかけてみたけど、聞く耳を持ってくれないんだ。
 怪人さん側で、他に話し合えそうな子っていえば……さっきの白髪の男の子くらい?
 でもその子帰っちゃったよ!
  
 なにか、他に解決方法は……。
 今までにないくらい、頭をフル回転させてみる。

 ええと……怪人さん達って、確かクリスタルをねらってるんだったっけ。
 さっきも「わたせー!」っておどしたり、無理やり取り上げようとしたり。
 そこまでするってことは、なんかすごい力があるのかも?
 傘を持つ手に、グッと力が入った。
  
 確か……変身した時って、クリスタルを使ったよね。
 わたし、「フラワークリスタル!」ってさけんだもん。
 ……じゃあ、まさか。
 思わずひゅっと息を飲んだ。
 
 魔法の力があるのって、ステッキじゃなくてクリスタル……?
 こわごわと、クリスタルを手に取ってみる。
 すると、キラッと一瞬光った気がした。まるで、「そうだよ」って言ってくれてるみたいに。
  
 なんとかできる……かな。
 ……うん、やってみよう!
 クリスタルを、ぎゅっとにぎりしめた。
 
 ——おねがいします、力をかしてくださいっ!
  
 おねがいに答えてくれるかのように、クリスタルさんが輝き始める!
「清らかな心にな〜れっ!」
 またたく間にステッキから光が!
 まわりが、だんだんキラキラしていく……!

「マジカル・ジプソフィラ!」
 頭に浮かんだ、魔法の呪文。
 さけぶと同時に、真っ白な光が怪人さんをつつみこんだ。ふわっふわの、わた雲みたい……!
 きれいで優しい、お花の魔法。
 思わずうっとり見とれちゃう。
  
 いつの間にか、光が消えて——気がつくと、怪人さんもいなくなっていた。
 まるで、最初からなにもなかったみたいに。
  
 ——わたしが、やったの……?
 今、なんだかほわほわしてるんだ。
 信じられなくて、ちょっとぼんやりしちゃってるのかな。
 わたし、魔法、使えた……?
  
 ほわ〜っとしてたら、空がキラッと光ったことに気づいた。
 うえぇっ、光が降ってくるっ!?
 どうすればいいかわからなくて、一人であわあわ。

 すると……流れ星みたいなそれは、わたしの近くでふわっと止まった。
 ふよふよ浮いてる、宝石に似ているナニカ。
 キラキラで、きれい。
 これ、もしかしてクリスタル……!?
 よくわからないけど、二つに増えちゃった。
  
「すごいのですっ」
 ヒマリちゃんが、うれしそうな声を上げた。
 ……って、うぇっ!?
 おめめキラキラでわたしを見てる!?

「助けてくれてありがとうなのです!」
「いっ、いえっ! わたし、勝手に首つっこんじゃっただけなのでっ」
 あわてて両手を振って否定。
 だって、そんな大したものじゃないからっ。
 魔法とかも全部偶然っ、クリスタルのおかげだしっ。

「そんなことないよ〜。ありがとう」
 つ、ツユくんまで……!
 そんなニコニコで見つめられると恥ずかしいっ。
 でも、すっごく嬉しい!
 心の中に、あたたかい気持ちがじんわり広がっていく。
 
「ほんとにね。ヒーラーさん、優しい人でよかったね」
「なのです! クリスタル、守ってくれたのです!」
 ツユくんの言葉に、ヒマリちゃんは強くうなずいた。
 
「……あ! じゃあ、『ヒーラーが危険』っていうのはウソなのです?」
 ——ん?
 聞こえた言葉に、心の温度がスっと冷えた。
 いやいや、聞き間違い——。

「ちょっとヒマリ。『ヒーラーが危険』っていうのはヒミツでしょ」
 ……え?
 わたし、目をぱちくり。
 今、なんだか不穏な言葉が聞こえた気がする。
 き、きけん……?
  
「だいじょうぶ、このヒーラーさんはいい人だと思うよ。……って、あれ? ヒーラーさん?」
 ツユくん、わたしの前で手をヒラヒラ。
 でも、わたしの頭はそれどころじゃない。
 顔からサッと血の気が引いていった。
  
 ——ヒーラーは危険。
 今、二人ともそう言ってた。聞いちゃった。
 わたし、さっき「フラワーヒーラー!」って名乗ったよね。
 じゃあ、まさか。
 その危険だっていうのは——。
「わっ、わたし……!?」
  
 白羽かすみ、ふつうの中学一年生。
 だったはずが、とんでもないものになっちゃった——!?