ハナコトバマジック!

 始まりは、四時間前にさかのぼって……。
  
 ピカピカの教室、席に着いたわたし。入学したばかりだから、まだちょっと慣れない。
 でもね、窓からの光はすっごくあたたかいし、たまーに鳥さんの歌声が聞こえてくるんだ。
 ふふっ。なんだか落ち着きそうだよね。
 そんな感じで、いかにも平和な生活……に、なるんだと思ってた。

 ——それは想像に終わりました。

 どうしよう、どうしよう!?
 ……そう、現実はこれ。

 顔面蒼白、心臓バクバク。頭の中は大パニック!
 なんということでしょう。静かなはずの教室が、うるさい空間に早変わり(わたし限定で)!
  
 だってだって、自己紹介だよっ!!
 人前で話さなきゃだよっ、人見知りには地獄だよっ。

 じっと座って、平気なフリをするわたし。
 マジメに聞いているみたいに見えるよね!
 だけど……ほらっ、ここ。よく見て。
 口元、ちょっとピクピクしてるの。不安がかくしきれてないんだよっ。
  
 自分の番が近づくにつれて、緊張が強くなってくる。
 みんなのお話も全く入ってこない。お名前覚えなきゃなのに。

 失敗したところを想像して……うわぁぁぁ!
 はげしく頭を振ったせいで、お下げ髪が荒ぶる。
 だいじょうぶだよっ、多分。イメトレなら、たくさんしてきたもん!
 ぎゅっと、机の下で両手をにぎった。
  
 ——白羽かすみです。お花が大好きです。よろしくお願いします。
 これだけ言って、ペコッとおじぎ。言うのは、このみっつだけ!
 最後に、にこっとほほえんで——よしっ、カンペキ!! (イメトレだけね!)
  
 こんな感じで考えていたら、わたしの番が回ってきた。
 ——って、もう!?
 あわてて立ち上がると同時に、ガタッとイスの音。ちょっと大きくてビクッとしちゃった。

 頑張って歩こう——としたんだけど。 
 体、ガッチガチ!!
 自分の体なのに、石みたいに動かない。

 どうしようっ。教壇に行くまでのこととか、もっと考えておけばよかったっ。
 頭の中で後悔がグルグル。

 手足を無理やり動かして、なんとか教壇にたどり着いた。
 この時のわたしは、さながらロボットのようでした——。
  
 もうすでに、この時点でボロボロ。
 自己紹介、終わってないのに。はやくお花にいやされたいっ。
 もう、教室から逃げ出したいくらい。さっきからドキドキが止まらない。

 教室——そうだっ!
 わたし、思いついちゃった。
 ここが教室だと思わなければいいんだ!
  
 落ち着いて、想像してみよう。
 ――ここは、お花畑。
 お日様がぽかぽかしてて、空気がとってもおいしくて。
 まわりには、たくさんのお花が咲いてるの。あっ、クラスメイトじゃなくてね!
 そう、教室じゃなくてお花。ここは、教室じゃないどこか!

 よし、お花に向かってしゃべってみよう。
 だいじょうぶ、だいじょうぶ。
 これなら、いけるっ……!
 
「わたしは——」
 チラッと目を開けて、後悔した。
 グサグサグサっと突き刺さる、視線、視線、視線!!
 お花の幻想はとうに消え、あっけなく現実に引き戻されてしまいました。
 
 *
 
 お、終わった……。
 自分の席に戻ってすぐ、へなへなと机に突っ伏した。
 思わず、ため息が出ちゃう。
 
 自己紹介、なにも言えずに時間切れになっちゃったの。
 自分の名前――「白羽かすみです」ってことすら話せなくて。白羽の「ら」だけを連呼する、ヘンな機械みたいになっちゃった。

 大失敗だよ。こんなんじゃ、自己紹介じゃなくて「事故」紹介だよっ。
 なんでわたし、こんなに人見知りなんだろ。いつまでたってもダメダメだなぁ……。

 脳内で反省するはずの言葉が、矢印になって心にグサグサ。
 うえぇっ、今度は自分で自分を傷つけてるよっ!!
 発表した後とか、毎回こうなってる気がする。それだけ、同じ失敗を何度もくりかえしてるってことだ。
 はぁ〜……わたし、ぜんぜん学ばないなぁ。
  
 ため息をついていたら——ふと、視線を感じることに気づいた。
 となりから? 左の席って、確か……みなとくん?
 チラッと見てみると、パチッと瑠璃色の瞳と目が合った。

 まるで、宝石みたい。吸い込まれちゃいそうなくらい、すごくきれいな目の男の子。
 どうしたのかなって見ていたら。
 すぐに、ぷいっとそらされた。
  
 ――ガーン!!
  
 となりの席の、瑠璃川湊くん。わたしの幼なじみ、なんだけど……。
 いろいろあって、なんかちょっと気まずくなっちゃった。
 気まずいどころか、嫌われてる気がするっ!
  
 今はこんな感じなんだけど、昔はすごーく仲良しだったんだ。
 こんなに嫌われてるってことは……。
 わたし、気づかない間に、なにか悪いことしちゃってたのかな。
 もし、そうだったら謝りたいな。

 昔みたいに、また仲良くできたらいいのに。……なんて、そんなの自分勝手だよね。
 しょんぼりしながら、机の影に目を落とした。