winterlovesong 雨の中の恋歌

 さてさて今年も1月4日が来た。 今日から仕事始めだ。
安田内科に出勤してカウンターを開ける。 他の看護婦も動き回っている。
 カモメ内科に居た頃は毎朝、院長と梓さんの絡み合う声を聴いていたっけ。 あの病院の風物詩だったなあ。
 もちろんそれもこの病院では起きそうにない。 院長も意外と真面目な人だから。
「おはようございまーす。」 院長は今日も元気がいい。
 「医者が元気無かったら患者さんはどうすればいいんだよ?」って聞いてくるから何も言えないわ。
 昼間の病院が終わると軽い夕食を済ませてスナックへ、、、。 ママも元気そうだなあ。
「今年もよろしくねえ。」 昨日まで部屋に泊まっていた清美が飛び付いてきた。
「あのさあ、、、。」 「分かってる。 言わないの。」
「しょうがないなあ。」 清美がカウンターの奥に行くとドアが開いた。 兼田である。
 「こんばんは。」 「あらあら兼田さん。 もう来たの?」 「もうは無いよ。 もうは。」
「だってさあ、兼田さんが一番に来るなんて、、、。」 「今年も儲けられそうね。 ママ。」
「そんな話はいいから付いてあげなさい。」 「すんません。」
 敬子は今夜も兼田の隣で飲んでいる。 「ライブ 来てたんだね?」
「そう。 一番前で見てました。」 「後で美紀から聞いたんだよ。」
「私も見てたわよ。」 水割りを持って清美が席に座った。
 「そっか。 清美ちゃんも来てくれてたんだ。」 「なんかさあレコードを聴いてたら見たくなっちゃって、、、。」
「そうなんだね。」 三人で話していたらドアが開いた。
 「こんばんなやあ。」 「遊びに来たでしゅーーーーー。」
「また来たのかい? あんたらよっぽどに暇なのね?」 「ママ それは無いだろう?」
「今夜も抱いてきたのね? 汚らわしいおじさんたちだわ。」 「いいじゃねえか。 抱こうと抱くまいとおらたちの勝手だべ。」
「何処で飲んできたのよ?」 「何処だっていいべさあ。」
 賑やかな二人は隣のボックスに体を沈めるとママと突っ込み合いを始めた。 「飽きないもんねえ。」
 清美は水割りを持ってママの隣に座った。 「おーーーーーや⁈ 清美ちゃんじゃないかいな。」
「それがどうしたの?」 「まあまあ怖い顔しないでさあ、飲もうぜよ。 お姉ちゃん。」 「酔ってる時だけだもんねえ。 優しいのは。」
「俺はいつでも優しいぞ‼」 「ほら吠え始めた。」
 ママたちが賑やかにやっている頃、敬子は兼田と飲みながら何かを考えているのである。 それは何だか分からないが、、、。
 「コンサート、すごい人だったわね。」 「やっとあれだけ来てくれるようになったんだ。 最初の頃は俺の友達だけだったんだから。」
「そうなの?」 「そりゃそうさ。 有名人じゃないしコネが有るわけでもないし知り合いが多いわけでもないんだから。」
 最初のコンサートは本当にガラガラだった。 最前列に友人が三人来てくれてるだけ。
次の年はやっと少し増えて最前列が半分くらい埋まったかな。 その次は新聞広告も少しは力になってやっと増えてきた。
 そこで思い切ってレコードを作ったんだ。 それからだよな、一気に増えてきたのは。
 「作詞っていつ頃してるの?」 「そうだなあ。 休みの日にゴロゴロしてたら不意に浮かんでくることも有るからノートは放せない。」
「あの人もそうなのかなあ?」 「美紀? 美紀は散歩しながらフッと浮かんだ言葉をノートに書いてるって言ってたよ。」
「フッと浮かんだ言葉をね。」 敬子は飲みながら『winterlovesong』を思い浮かべた。

 あの日、あなたが囁いたあの言葉を私は忘れない。
君のために生きれる人生が有るならぼくはそのために命を投げ出すよ。

 (私にだってそう言ってくれる人が現れるのかなあ?) 「さあ今年も恒例の運命じゃんけんをしよう‼」
ぼんやりしているとママの元気な声が聞こえてきた。 「運命じゃんけん?」
「そうよ。 今年の景気付けにやろうじゃない。」 「そっか。」
 あの酔っ払ったおじさんたちもパチッと目を開いてママを見ております。 「さあやるわよ。」
ママは少し酔った顔でみんなの方を向いた。 「新年最初の運試しだからね。 やるわよ‼」
 「負けられないなあ。」 「競馬じゃないんだから。」
「博打みたいなもんだよ。 なあ敬子ちゃん。」
「博打ですよ。」 「えーーーーーー? 博打なの?」
「そんな大げさな、、、。」 「じゃんけんポン‼」
「うわ、今年も負けたわ。」 「清美ちゃん いつも負けっぱなしねえ あんた。」
「今年もまたまたいろいろと荒れそうだなあ。」 「いいじゃない。 何も無いとつまんないわよ。」
「そりゃそうかもしれないけど、、、。」 「清美は荒れっぱなしだもんねえ。」