ボーっとした頭で真夜中に目を覚ました敬子はストーブの灯油が無くなっていることに気付いた。 「やばいなあ。 入れとかないと凍るじゃない。」
タンクを引き出した彼女は玄関で灯油を足し始めた。 「寒いなあ。」
北国ほどではないけれど冬の夜はやっぱり寒い物。 震えながらストーブにタンクをセットして布団の中へ、、、。
そして清美がそうだったように敬子も清美をきつく抱き締めて夢に落ちるのだった。
翌朝、まるで冬眠から覚めたばかりの熊みたいに布団から這い出してきた清美は身震いしてからストーブに火を点けた。 「朝はやっぱり寒いわねえ。」
ストーブの前で丸まっている清見を見ながら敬子はクスクス笑っている。 「何笑ってんのよ?」
「だって熊みたいなんだもん。」 「しょうがないでしょう。 寒がりなんだから。」
「そっか。 それで私にくっ付いてたのね?」 「今頃気付いた?」
「そうじゃないかなあ?とは思ってたんだけどね。」 敬子は炊飯器に研いだばかりの米を入れてスイッチを押した。
「朝は何を食べるの? お母さん。」 「だからさあ、お母さんはやめてってば。」
「いいじゃない。 ここに居る時だけよ。 お母さん。」 「だーかーらーーーー。」
敬子は冷蔵庫を開けた。 「よしよし。 豆腐も有るし葱も有る。 味噌汁で決まり。」
「やっぱりお母さんだなあ。」 「娘には手伝ってもらいますからね。」
「はいはいお母さん。」 「調子いいんだからなあ。」
清美に葱と豆腐を切ってもらう。 隣で診てたら惚れちゃうなあ。
鍋に水を入れ、出汁をといてから豆腐を入れる。 それから若芽も、、、。
「ほんとにお母さんみたいね。 あなた。」 「だって子供の頃から料理を作ってたから。」
「そうなの?」 「だってさあ、うちは大祖父から一緒に住んでたのよ。 お母さんたちも働いてるから料理を作るのは私たち。」
「そうだったのか。 うちじゃあ考えられないなあ。」 「サラリーマンだったんでしょう? いいわよねえ。」
「何で?」 「私はご褒美すら貰ったことは無いから。」
「そうなんだ。」 味噌汁を飲みながら敬子の話を聞く。
清美はだんだんと寂しい思いになってくるのである。 「でもいいのよ。 今は清美ちゃんが居るから。」
「まるでおしんみたいね。」 「そうかなあ? でも私って大根飯は食べたこと無いなあ。」
「大根飯か。 私も無いなあ。」 「作ってみる?」
「いいわよ。 明るい農村じゃないんだから。」 「うちは田んぼも広くてみんなでやってたのよ。」
「そうなの? 米を育てるのって大変なんでしょう?」 「話し出すと切りが無いわね。」
「そっか。」 清美はお椀を持って台所に来た。
「今日は私が洗うわよ。」 「いいの?」
「だっていつも敬子ばかりじゃ、、、。」
「じゃあお願いね。」
敬子はそう言うと窓を少しだけ開けてみた。 「寒いなあ。」
「そりゃそうよ。 冬なんだから。」 「そうだけどさあ、、、。」
向かいには古い家が建っている。 その屋根も雪で重たそう。
前の通りをぼんやりと見詰めていると、、、。 猛スピードでクラウンが走ってくるのが見えた。
「危ないなあ。 事故らなきゃいいけど、、、。」 道路もいい感じで雪が積もっている。
その雪を蹴散らしながらクラウンは走って行った。 と、、、。
「キャーーーーーーーー‼」っというものすごい悲鳴が聞こえてきた。 「なになに? 何が有ったの?」
その声に驚いた清美も窓際へ飛んできた。 「事故った。」
「え?」 見ると家を過ぎた後でカーブを曲がれなかったのかカーブミラーに激突しているクラウンが居る。
「電話、電話、速く‼」 清美も蒼い顔をしている。
「ええ。 そうなんです。 春山アパートの前です。」 敬子は電話してから溜息を吐いた。
「しかしまあ、すごい音だったねえ。」 「うん。 うん。」
清美はテーブルの前に座ると力が抜けてしまったらしい。 「びっくりした。」
「あれじゃあ助からないかもなあ。」 「すごかったもんねえ。」
「新年早々に大変だわ。」 そこへガシャッという音がした。
「なあに?」 「たぶん年賀状が来たんだわ。」
敬子は玄関へ歩いて行った。 郵便受けをそっと開けてみる。
安田委員長からも来てるし梓さんからも来てる。 「これは?」
見慣れないハガキだと思ってテーブルに置いてみた。 「あはは、それって私が出したやつじゃない。」
「そうなの? なあんだ、清美ちゃんか。」 ハガキを拾って読んでみる。
「そんなマジに読まないでよ。 恥ずかしいでしょう。」 「うーーん、なるほどねえ。」
「さてさてお昼でも食べようか。」 「そうだねえ。 お腹空いた。」
お参りの帰りに買ってきた弁当を広げる。 「たまにはこういうのもいいなあ。 ねえ、敬子。」
「そうねえ。 清美ちゃんと暮らすことになったら増えそうだけど、、、。」 「私だって頑張って作るわよ。 お母さんには負けないんだから。」
「まあ頑張ってね。」 「応援してよ。」
「応援か、、、。」 「何よ? お母さん。」
「やめてくれないかなあ? くすぐったいじゃない。」 「いいの。 私のお母さんなんだから。」
「もう、、、。」 テレビはニュースの時間らしい。
「今朝、5時48分ごろ、北尾浜町の交差点で初詣帰りの車と宅配業者のトラックが正面衝突しました。」 「うわ、凹んでる。」
「これじゃあ車のほうは大変ね。 助からないんじゃないかなあ?」 「正月早々に事故るなんて最悪よね。」
「今日は朝から事故のニュースばかりだなあ。」 「しょうがないじゃない。 こんだけ車が増えたんだもん。」
「そうよねえ。 乗ってなくて良かった。」 このアパートから安田内科までは歩いて20分。
敬子は今朝の事故を思い出して身震いするのでした。 弁当を食べ終わると二人は揃って畳の上に体を投げ出します。
「いきなり抱いたりしないでね。」 「何で?」
「昼間からやっちゃうと夜が大変だから。」 「真面目なのねえ。 敬子は。」
「そんなんじゃなくて、、、。」 でも気付いたら敬子は清美の腕の中に、、、。
敬子の髪を撫でながら清美は何かを考えている。 それが何だかは分からない。
外は静かなまま。 あの事故の後、しばらくは警察が来ていろいろと調べてたんだけど。
あれほどに激しい事故も無かったからお巡りさんたちも驚いた様子。 何しろ時速80キロくらいでぶつかってるっていうから相当なものだ。
もちろん車に乗っていた二人はほぼ即死だった。 可哀そうにね。
3時を過ぎた頃、部屋が寒くなったことに気付いた敬子は目を覚ますとストーブに目をやった。 「寒いなあ。 もう。」
清美に抱っこされて寝ていたんだな。 その時は暖かかったけど、、、。
敬子はまたまたタンクを取り出して灯油を、、、。 「よし。 これでいいぞ。」
ストーブを点けていると清美も目を覚ましたらしい。 「寝ちゃったわねえ。」
「うん。 いきなり抱っこするから驚いたわよ。」 「でもなんか嬉しそうだったよ。」
「え? そんなこと、、、。」 「やっぱり敬子も好きなんだなって思った。」
「違う違う。 そんなことは無いから。」 「でもさ、しがみ付いてたよ。 私に。」
「うっそだあ。 そんなこと無いわよ。」 洗濯物を干している敬子は真っ赤になった。
「夜は何を食べようかなあ?」 「そうねえ。 元旦だからお祝いでもしたいなあ。」
「寿司でも買ってこようか。」 「今日なんて開いてるの?」
「寿司屋さんはやってないと思うけどコンビニならやってるでしょう。」 「コンビニの寿司か。」
複雑な顔をする敬子を残して清美は夜の通りへ出て行った。 まだまだ雪は降り続いているらしい。
敬子は正月特番を見ながら実家でのことを思い出していた。 「あの頃はひもじい思いもしたけど楽しかったよなあ。」
田仕事をしていれば蛭だって吸い付いてくる。 姉ちゃんたちとワーワー言いながら走り回ってたんだ。
「何だ。 蛭が吸い付いたのか。 昔からよくあることだよ。」 父さんは何事も無かったような顔で酒を飲む。
母さんはその隣で縫い仕事をしている。 割烹着が破れたとか、帽子に穴が開いたとか言って。
正月が近付いてくると近所の人たちも集まって庭で餅つきをする。 前の晩から糯米を水に浸しておく。
それを朝から蒸篭に入れて蒸すんだよな。 蒸した米は臼に入れておじさんたちが杵を振り下ろす。
最初は二人で糯米を捏ね回す。 ある程度丸まってきたら「行くぞ‼」って言って杵を振り上げる。
ペッタンペッタン 撃つ音が響く。 その合間におばさんが水を差す。
突き上がったら台に乗せてみんなで餅を丸める。 鏡餅は最初に作っておく。
それを飾ってから餡子や大根下ろしで子供たちも餅を食べる。 それが正月の楽しみ。
それが今では、、、。
敬子が考え事をしていると清美が帰ってきた。 「買った買った。 圧し寿司に助六に海苔巻きまで。」
「どんだけ買ったのよ?」 「明日の朝も食べたいなと思って買ってきた。」
清美はテーブルに寿司を並べるとドッカト座り込んだ。 「寒かったわーーー。 暖めてね。」
「また私?」 「そうよ。 お母さんなんだから。」
「しょうがないなあ。」 敬子は苦笑いしながらビールを出してきた。
「さあ食べよう。」 清美はそう言って圧し寿司を開いた。
静かな正月、清美と二人で寿司を食べながらビールを飲む。 何の変哲も無い夜を迎えた気がする。
このままずっと清美と二人で暮らすのかな? そう思っていると清美が甘えてきた。
「ねえねえ敬子お母さん。 今夜も可愛がってね。」 「何するの?」
「分かってるでしょう? 私は敬子が好きなんだから。」 (酔ってるなあ。)
甘えてくる清美の髪を撫でてみる。 「寝ちゃいそうだわ。」
不意に肩に頭を載せた清美はそのまま寝てしまったらしい。 「重たいなあ。」
なんとか清美を布団に寝せると敬子はストーブのタンクを引き出した。 「入れとかないと夜中は寒いからねえ。」
盛岡市の隣に玉山という村が有る。 本州で一番寒くなるって言われる村である。
その村には遠い親戚の叔母さんが住んでいる。 時々は電話で話すんだけど、、、。
「今日もさあ真昼間でも-12℃だったのよ。 夜になっちゃったからもっと冷えてるけど。」 「凍らないでね。」
「大丈夫だあ。 私って脂が多いから。」 「太ってるほうが寒いんだってよ。」
「そうでもないってばさ。 凍って堪るもんですか。」 「元気ねえ。」
いつもいつもそんな話をしてたっけ。 夜は-17℃とか、、、。
布団に入ると清美を抱き寄せてみる。 「やっぱり可愛いなあ。 清美は。」
タンクを引き出した彼女は玄関で灯油を足し始めた。 「寒いなあ。」
北国ほどではないけれど冬の夜はやっぱり寒い物。 震えながらストーブにタンクをセットして布団の中へ、、、。
そして清美がそうだったように敬子も清美をきつく抱き締めて夢に落ちるのだった。
翌朝、まるで冬眠から覚めたばかりの熊みたいに布団から這い出してきた清美は身震いしてからストーブに火を点けた。 「朝はやっぱり寒いわねえ。」
ストーブの前で丸まっている清見を見ながら敬子はクスクス笑っている。 「何笑ってんのよ?」
「だって熊みたいなんだもん。」 「しょうがないでしょう。 寒がりなんだから。」
「そっか。 それで私にくっ付いてたのね?」 「今頃気付いた?」
「そうじゃないかなあ?とは思ってたんだけどね。」 敬子は炊飯器に研いだばかりの米を入れてスイッチを押した。
「朝は何を食べるの? お母さん。」 「だからさあ、お母さんはやめてってば。」
「いいじゃない。 ここに居る時だけよ。 お母さん。」 「だーかーらーーーー。」
敬子は冷蔵庫を開けた。 「よしよし。 豆腐も有るし葱も有る。 味噌汁で決まり。」
「やっぱりお母さんだなあ。」 「娘には手伝ってもらいますからね。」
「はいはいお母さん。」 「調子いいんだからなあ。」
清美に葱と豆腐を切ってもらう。 隣で診てたら惚れちゃうなあ。
鍋に水を入れ、出汁をといてから豆腐を入れる。 それから若芽も、、、。
「ほんとにお母さんみたいね。 あなた。」 「だって子供の頃から料理を作ってたから。」
「そうなの?」 「だってさあ、うちは大祖父から一緒に住んでたのよ。 お母さんたちも働いてるから料理を作るのは私たち。」
「そうだったのか。 うちじゃあ考えられないなあ。」 「サラリーマンだったんでしょう? いいわよねえ。」
「何で?」 「私はご褒美すら貰ったことは無いから。」
「そうなんだ。」 味噌汁を飲みながら敬子の話を聞く。
清美はだんだんと寂しい思いになってくるのである。 「でもいいのよ。 今は清美ちゃんが居るから。」
「まるでおしんみたいね。」 「そうかなあ? でも私って大根飯は食べたこと無いなあ。」
「大根飯か。 私も無いなあ。」 「作ってみる?」
「いいわよ。 明るい農村じゃないんだから。」 「うちは田んぼも広くてみんなでやってたのよ。」
「そうなの? 米を育てるのって大変なんでしょう?」 「話し出すと切りが無いわね。」
「そっか。」 清美はお椀を持って台所に来た。
「今日は私が洗うわよ。」 「いいの?」
「だっていつも敬子ばかりじゃ、、、。」
「じゃあお願いね。」
敬子はそう言うと窓を少しだけ開けてみた。 「寒いなあ。」
「そりゃそうよ。 冬なんだから。」 「そうだけどさあ、、、。」
向かいには古い家が建っている。 その屋根も雪で重たそう。
前の通りをぼんやりと見詰めていると、、、。 猛スピードでクラウンが走ってくるのが見えた。
「危ないなあ。 事故らなきゃいいけど、、、。」 道路もいい感じで雪が積もっている。
その雪を蹴散らしながらクラウンは走って行った。 と、、、。
「キャーーーーーーーー‼」っというものすごい悲鳴が聞こえてきた。 「なになに? 何が有ったの?」
その声に驚いた清美も窓際へ飛んできた。 「事故った。」
「え?」 見ると家を過ぎた後でカーブを曲がれなかったのかカーブミラーに激突しているクラウンが居る。
「電話、電話、速く‼」 清美も蒼い顔をしている。
「ええ。 そうなんです。 春山アパートの前です。」 敬子は電話してから溜息を吐いた。
「しかしまあ、すごい音だったねえ。」 「うん。 うん。」
清美はテーブルの前に座ると力が抜けてしまったらしい。 「びっくりした。」
「あれじゃあ助からないかもなあ。」 「すごかったもんねえ。」
「新年早々に大変だわ。」 そこへガシャッという音がした。
「なあに?」 「たぶん年賀状が来たんだわ。」
敬子は玄関へ歩いて行った。 郵便受けをそっと開けてみる。
安田委員長からも来てるし梓さんからも来てる。 「これは?」
見慣れないハガキだと思ってテーブルに置いてみた。 「あはは、それって私が出したやつじゃない。」
「そうなの? なあんだ、清美ちゃんか。」 ハガキを拾って読んでみる。
「そんなマジに読まないでよ。 恥ずかしいでしょう。」 「うーーん、なるほどねえ。」
「さてさてお昼でも食べようか。」 「そうだねえ。 お腹空いた。」
お参りの帰りに買ってきた弁当を広げる。 「たまにはこういうのもいいなあ。 ねえ、敬子。」
「そうねえ。 清美ちゃんと暮らすことになったら増えそうだけど、、、。」 「私だって頑張って作るわよ。 お母さんには負けないんだから。」
「まあ頑張ってね。」 「応援してよ。」
「応援か、、、。」 「何よ? お母さん。」
「やめてくれないかなあ? くすぐったいじゃない。」 「いいの。 私のお母さんなんだから。」
「もう、、、。」 テレビはニュースの時間らしい。
「今朝、5時48分ごろ、北尾浜町の交差点で初詣帰りの車と宅配業者のトラックが正面衝突しました。」 「うわ、凹んでる。」
「これじゃあ車のほうは大変ね。 助からないんじゃないかなあ?」 「正月早々に事故るなんて最悪よね。」
「今日は朝から事故のニュースばかりだなあ。」 「しょうがないじゃない。 こんだけ車が増えたんだもん。」
「そうよねえ。 乗ってなくて良かった。」 このアパートから安田内科までは歩いて20分。
敬子は今朝の事故を思い出して身震いするのでした。 弁当を食べ終わると二人は揃って畳の上に体を投げ出します。
「いきなり抱いたりしないでね。」 「何で?」
「昼間からやっちゃうと夜が大変だから。」 「真面目なのねえ。 敬子は。」
「そんなんじゃなくて、、、。」 でも気付いたら敬子は清美の腕の中に、、、。
敬子の髪を撫でながら清美は何かを考えている。 それが何だかは分からない。
外は静かなまま。 あの事故の後、しばらくは警察が来ていろいろと調べてたんだけど。
あれほどに激しい事故も無かったからお巡りさんたちも驚いた様子。 何しろ時速80キロくらいでぶつかってるっていうから相当なものだ。
もちろん車に乗っていた二人はほぼ即死だった。 可哀そうにね。
3時を過ぎた頃、部屋が寒くなったことに気付いた敬子は目を覚ますとストーブに目をやった。 「寒いなあ。 もう。」
清美に抱っこされて寝ていたんだな。 その時は暖かかったけど、、、。
敬子はまたまたタンクを取り出して灯油を、、、。 「よし。 これでいいぞ。」
ストーブを点けていると清美も目を覚ましたらしい。 「寝ちゃったわねえ。」
「うん。 いきなり抱っこするから驚いたわよ。」 「でもなんか嬉しそうだったよ。」
「え? そんなこと、、、。」 「やっぱり敬子も好きなんだなって思った。」
「違う違う。 そんなことは無いから。」 「でもさ、しがみ付いてたよ。 私に。」
「うっそだあ。 そんなこと無いわよ。」 洗濯物を干している敬子は真っ赤になった。
「夜は何を食べようかなあ?」 「そうねえ。 元旦だからお祝いでもしたいなあ。」
「寿司でも買ってこようか。」 「今日なんて開いてるの?」
「寿司屋さんはやってないと思うけどコンビニならやってるでしょう。」 「コンビニの寿司か。」
複雑な顔をする敬子を残して清美は夜の通りへ出て行った。 まだまだ雪は降り続いているらしい。
敬子は正月特番を見ながら実家でのことを思い出していた。 「あの頃はひもじい思いもしたけど楽しかったよなあ。」
田仕事をしていれば蛭だって吸い付いてくる。 姉ちゃんたちとワーワー言いながら走り回ってたんだ。
「何だ。 蛭が吸い付いたのか。 昔からよくあることだよ。」 父さんは何事も無かったような顔で酒を飲む。
母さんはその隣で縫い仕事をしている。 割烹着が破れたとか、帽子に穴が開いたとか言って。
正月が近付いてくると近所の人たちも集まって庭で餅つきをする。 前の晩から糯米を水に浸しておく。
それを朝から蒸篭に入れて蒸すんだよな。 蒸した米は臼に入れておじさんたちが杵を振り下ろす。
最初は二人で糯米を捏ね回す。 ある程度丸まってきたら「行くぞ‼」って言って杵を振り上げる。
ペッタンペッタン 撃つ音が響く。 その合間におばさんが水を差す。
突き上がったら台に乗せてみんなで餅を丸める。 鏡餅は最初に作っておく。
それを飾ってから餡子や大根下ろしで子供たちも餅を食べる。 それが正月の楽しみ。
それが今では、、、。
敬子が考え事をしていると清美が帰ってきた。 「買った買った。 圧し寿司に助六に海苔巻きまで。」
「どんだけ買ったのよ?」 「明日の朝も食べたいなと思って買ってきた。」
清美はテーブルに寿司を並べるとドッカト座り込んだ。 「寒かったわーーー。 暖めてね。」
「また私?」 「そうよ。 お母さんなんだから。」
「しょうがないなあ。」 敬子は苦笑いしながらビールを出してきた。
「さあ食べよう。」 清美はそう言って圧し寿司を開いた。
静かな正月、清美と二人で寿司を食べながらビールを飲む。 何の変哲も無い夜を迎えた気がする。
このままずっと清美と二人で暮らすのかな? そう思っていると清美が甘えてきた。
「ねえねえ敬子お母さん。 今夜も可愛がってね。」 「何するの?」
「分かってるでしょう? 私は敬子が好きなんだから。」 (酔ってるなあ。)
甘えてくる清美の髪を撫でてみる。 「寝ちゃいそうだわ。」
不意に肩に頭を載せた清美はそのまま寝てしまったらしい。 「重たいなあ。」
なんとか清美を布団に寝せると敬子はストーブのタンクを引き出した。 「入れとかないと夜中は寒いからねえ。」
盛岡市の隣に玉山という村が有る。 本州で一番寒くなるって言われる村である。
その村には遠い親戚の叔母さんが住んでいる。 時々は電話で話すんだけど、、、。
「今日もさあ真昼間でも-12℃だったのよ。 夜になっちゃったからもっと冷えてるけど。」 「凍らないでね。」
「大丈夫だあ。 私って脂が多いから。」 「太ってるほうが寒いんだってよ。」
「そうでもないってばさ。 凍って堪るもんですか。」 「元気ねえ。」
いつもいつもそんな話をしてたっけ。 夜は-17℃とか、、、。
布団に入ると清美を抱き寄せてみる。 「やっぱり可愛いなあ。 清美は。」



