winterlovesong 雨の中の恋歌

 うどんを食べながら二人は黙り込んでいる。 何を考えてるのかと思ったら、、、。
(しばらく男なんて現れそうも無いし二人で暮らしてもいいかな。)なんて、、、。
 看護婦とホステスの淡い同棲が始まるのである。 とはいっても今日は大晦日。
夜にはレコード大賞と紅白歌合戦が有る。 年末と言えばこれを見なきゃ始まらない。
 それまでは暇だから二人で狭い部屋の掃除をする。 「ここで敬子と二人で暮らしてもいいよね?」
「清美ちゃんと? そっか、そうなのか。」 「なあに?」
「うどん食べながら何を考えてるんだろう?って不思議だったけど、同じことを考えてたのね?」 「あらま、敬子も考えてたの?」
「うん。 清美ちゃんとならいいかなって。」 「そうよねえ。 お互い25歳だし男は現れないしいいかもね。」
 窓を拭きながら敬子は夜中のことを思い出した。 そして棚を拭いている清見を後ろから抱いてみた。
 「うわーーーーー、真昼間から萌えちゃうわよ。」 「ウフ、可愛い。」
「そんな、可愛いなんて言わないでよ。 ますます萌えちゃうでしょう?」 それでも敬子は清美を放さない。
「キスしちゃうわ。」 振り向いた清美は敬子の頬っぺたにキスをした。
 (昼間から何をしてるんだろう?) キスされて目が覚めた敬子は思わず座り込んでしまった。
外は静かに雪が降り続いている。 今頃、兼田は何をしてるんだろう?
 「ライブが終わったらみんなで飲みに行くんだ。 朝まで飲んでるから次の日はみんなして死んでるよ。」 そう笑ってたっけ。
(ということは美紀ちゃんも酔っ払って寝てるのかな?) たぶんそうだろうなあ。
 それから店が閉まらないうちに二人で買い物をする。 正月の間は敬子の部屋に居るんだから。
食料やらお菓子やらコーヒーやらパンやら買い込んで帰ってきたのは午後6時。
 「あーーーーーーーー、疲れた。」 荷物をテーブルに置いて清美は床に座り込んだ。
「これはなおしておかないとねえ。」 敬子は冷蔵庫を開けて食料品を詰め込んでいく。 「あんたは元気がいいわねえ。」
「そりゃそうよ。 毎日歩き回ってるんだから。」 「だよなあ。 あたしなんて毎晩座って飲んでるだけだからなあ。」
 清美は何気にテレビのスイッチを入れた。 「もうすぐレコード大賞だね。」
「今年は誰かなあ?」 「さあねえ。」
 ビールを飲みながらブラウン管と敬子を交互に見詰めている。 「どうしたの?」
「あんたってさあ、見てるといい女よねえ。」 「は?」
「今までもいろんなホステスを見てきたけどあんたほど好きだなって思うホステスは居なかったわ。」 「やめてよ。 私はまだ、、、。」
「照れなくてもいいのよ。 昨日さあ、あんたの横で寝ててそう思ったの。」 「私ってそんなに良かった?」
「いつもは話してるだけでしょう。 本気で抱いたことなんか無かった。」 「そりゃあ私だって清美に抱かれるとは思わなかったわよ。」
「抱き合ってるとさあ、やっぱり好きなんだなって思ったのよ。」 「もしかしてカップル誕生?」
「そうかもねえ。 乾杯しましょう。」 清美は缶ビールを持った敬子の手を握った。
 ブラウン管の中では新人賞とかアルバム大賞など賞が発表されていく。 二人は飲みながら互いを見詰め合ったまま、、、。
清美は立ち上がって棚からスルメを出してきた。 「もうすぐ除夜の鐘ねえ。」
「まだ3時間くらい有るけど、、、。」 「いいの。 あたしの頭の中では鐘が鳴ってるんだから。」
「ゴーンって?」 「さあねえ。 ボーンかもよ。」
 くだらない話をしながらビールを飲む。 スナックで飲んでるからなのか違和感が全く無い二人なのである。
昭和という時代ももうすぐ60年。 長かったなあ。
 そりゃあお母さんやおばあちゃんたちは相当に苦労したんだろうなあ。 私たちは戦後生まれだからまだいいけど、、、。
あの頃は「お国日の丸」だったからなあ。 若い子たちは「お国と結婚するんだ。」って言われて送り出されたらしいね。
 世間的にも軍国花嫁だ何だって言われたらしいけど、そんなのってどうなのよ? 徴兵された人たちは人たちで「明日には戦地に行くんだ。 子供を、、、。」ってそれはそれで必死だったんだろう。
死ぬために行くようなもんだからね。 それから見れば今は幸せよねえ。
 酔っている清見の頭を撫でながら敬子はふと考えるのである。 (私を捕まえる人ってどんな人なんだろう?)
「紅白歌合戦‼」 元気な声が聞こえてきた。
 飲んでいる間に9時を過ぎていたらしい。 レコード大賞に出ていた人たちも歌合戦の会場に集まっている。
「今年もいろいろ出るんだなあ。」

 「レコート大賞の中継場所から紅白の場所まで近いのかなあ?」 「何で?」
「だって始まる頃にはみんな揃ってるじゃない。」 「戦争だと思うよ。 時間だってそんなに無いんだし。」
「そうだよなあ。 あの時間で移動できるなんてすごいなあ。」 「何感心してるのよ?」
「だって、、、。」 「そんなんはいいから飲もうよ。」
 9時から始まった紅白歌合戦を見ながら二人はまた飲み始めるのである。 「今年も終わるわねえ。」
「来年はもっと大変だろうなあ。」 「来年のことはいいから食べようよ。」
 雪が静かに降っている夜中、二人は狭い部屋で二日目の夜を迎えるのでありました。

 夜が明けるとテレビはすっかり迎春ムード。 番組もコマーシャルも全てそう。
「あけましておめでとうございます。」 あっちでもこっちでもみんなが笑顔でそう繰り返す。
 「何がおめでたいんだろうねえ?」 「いいじゃない。 年の初めはこうなのよ。」
 買ってきておいた総菜を食べながら不思議そうな顔をする清美に苦笑する敬子。 「今年は何が起きるんだろうなあ?」
「さあねえ。 考えてみたって分からないわよ。 一寸先は闇だって言うでしょう。」 「それはそうだけどさあ。」
「この日にこんなことが起きますなんて分かったら生きてられないわよ。」 「それもそうね。」
 「ねえねえ敬子。 初詣に行こうよ。」 「初詣?」
「そうだよ。 新年はやっぱりここから始まるのよ。」 「神社化、、、嫌いじゃないけど、、、。」
 二の足を踏んでいる敬子をよそに清美はどっか楽しそう。 髪を整えながら笑っている。
「いいじゃない。 行こうよ。」 「何処まで?」
「そこにお稲荷様が居るじゃない。」 「あっそうか。」
 普段は見向きもされないような小さな神社が近くに在った。 敬子だって知らないわけでもないけど、、、。
「せっかく居るんだからお参りしようよ。」 「そうねえ。」
 何となく気乗りしない返事をしてから外出の支度をする。 ライブの帰りに立ち寄って以来、清美は同じ服を着たまま、、、。
「清美ちゃん これ着る?」 そんな清美に同情したのか、敬子はブラウスとスカートを出してきた。
 ジャンバーは着てたからいいけど借り物の服を着て清美は何となく照れている。 「どうしたの?」
「だって借りて着るなんて初めてだから、、、。」 「似合うじゃない。 今日はそれでいいんじゃないかなあ?」
「じゃあ行こうか。」 それでまあ雪の積もる道を二人はそろそろと歩いて行くのであります。
 目指す神社はアパートから15分ほど。 近くには弁当屋さんが在って元旦の今日も営業中。
「お参りに来てる人が居るわねえ。」 清美はチラリと境内を見やる。
「ここは何が叶うのかなあ?」 「お稲荷様だから商売とか結婚とかじゃないの?」
「じゃあ清美ちゃんはちゃんとお参りしなきゃね。」 「敬子もだよ。」
「分かってるってば。」 二人して神殿に向かう。
大きな神社とは違うけどやっぱり緊張してしまう。 手を合わせて礼をする。
 神主も巫女も居ないけど静かな雰囲気で心を洗われるような気になっている。 (清美は何を祈ったんだろう?)
気にはなるけどそれより何よりお腹が空いている敬子は帰りしなに弁当屋へ寄った。 「大きいのも有るんだなあ。」
 トンカツやらハンバーグやら野菜炒めやら有る物全てを食べてしまいそうな眼で弁当を選ぶ。 「よし、これでいいや。」
「何を買ったの?」 「野菜炒めとハンバーグカレー。」
「そっか。 私は煮魚と焼きそばよ。」 二人は食べ物の話をしながらアパートへ帰ってきた。
 「明日は水曜日だね。 金曜日からお店も再開だ。」 「今だけでいいから仕事の話は止めようよ。」
「そうね。 まずは腹ごしらえだわ。」 「何かするの?」
「うーーーん、何もしないと思う。」 「なあんだ。」
 初詣から帰ってきた敬子は洗濯を始めた。 「清美ちゃんのも洗っとくね。」
「ありがとう。 お母さん。」 「やだなあ。 お母さんなんてやめてよ。」
「いいじゃない。 お母さんなんだから。」 「それで私を抱いたわけ?」
「んんんんん、それは別。」 「あ、あのねえ、、、。」
 静かな年明け。 今年はどんな年になるんだろう?
安田内科に勤めながら終末をスナックで過ごしている敬子は果てしない夢を見るのである。 (もしかして今年は清美ちゃんとずっと暮らすのかな?)
そんなことも考えたりする。 昼間の清美はいつも夢の中。
 テレビでは正月特番をやっている。 いつものお笑い芸人が賑わせているようだ。
(これはツービートだな。) 横目でチラチラ見ながら敬子は洗濯を続けている。
 清美はコーヒーを飲みながら物思いにふけっている。 かと思えば不意に敬子に飛び付いたりして、、、。
 「どうしたの?」 「甘えたくなったのよ。」
「へえ。 西山さんでも呼んだら?」 「ダメダメ。 敬子に妬いちゃう。」
「何で?」 「胸 大きいからよ。」
「やだあ。 エッチ。」 「なあに? 敬子だって私の胸を触ってたじゃない。」
「それは言わないで。」 「ったくもう、、、。 初心なんだから。」
 夕方になりご飯を食べながらやっぱり清美は敬子をじっと見詰めているのである。 「どうしたのよ?」
「やっぱりさあ、私って敬子が好きなのかも。」 「嫌だなあ。 やめてよ そんなこと。」
「ほんとなのよ。 抱いた時にそう感じたの。」 「映画の見過ぎじゃないの?」
「松坂慶子に憧れてたからなあ 私。」 「あんな美人と比べないでよ。」
「いいの。 敬子は敬子なんだから。」 そう言って清美はまたまた敬子を押し倒した。
 こうして二人は今夜も愛し合っているのである。 窓の外ではいつ止むとも知れない雪が降り続いている。
このアパート、実は3階建て。 敬子の部屋は2階の南向き。
だからなのか、そんなに雪が殴りつけることも無く北風に煽られることも無い。 窓から見えるのは駅前に向かって伸びている新道だ。
アパートがちょうど雪除けになっているからかこの場所で雪を払っているトラックが居る。 それを恨めしそうに避けていくタクシーが居る。
それでも21時を過ぎると物音一つ聞こえなくなってしまう。 やっぱりここは寂しい町なのである。