「へえ、あんた意外といい歌を作るじゃない。」 清美はずっと聞き惚れているらしい。
今夜はうるさいおっさんたちも来ないらしいからママもどっか気が抜けたようである。
「あの人たちは来ないのかなあ?」 「清美ちゃん 思い出さないの。 思い出したらみんな揃って来ちゃうでしょう。」
「それもそうだわね。 あはは。」 敬子はふとトイレに立った。 「さあ飲むぞーーーー。」
ママが気合を入れている。 こんな夜も珍しい。
美紀は時々清美と話しながら飲んでいる。 兼田とは高校からの付き合いだそうで。
結婚までは考えてないんだけど仲良しだからって今も一緒に歌っている。 美紀が詩を書いて兼田が曲を着けているらしい。
時々はスタジオミュージシャンの先輩がアレンジをしてくれるそうで、その曲が出来上がるとバンドを連れて会いに来るんだって。
高橋千尋とか山野孝明とかいうギタリストも暮れのライブに飛び入りしてくるらしい。 だから晦日のライブには立ち見が出るって噂だ。
「ライブは何処でやってるの?」 「ああ、エターナルですよ。」
「エターナル? それって何処?」 「あれあれ? 清美さんも知らないんだっけ?」
「私さあ、ライブハウスなんて行ったこと無いから。」 「清原町駅の前ですよ。」
「あんな所にライブハウスなんて有ったっけ?」 「10年前に出来たんだって。」
「ライブか、、、。 行っていいのかな?」 「ぜひ来てください。」
12月30日と言えば日曜日。 内科も最後の日。
忘年会は火曜日にやってしまったから文句を言われることも無い。 (行ってみようかな。)
cdからは静かな歌が聞こえている。 『愛する人に出会えたら』ってタイトルらしい。
美紀は酔った顔で兼田にもたれている。 何か幸せそう。
敬子は飲みながら美紀が歌っている姿を思い浮かべてみた。 バンドも時には参加するって言ってたっけ。
ドラム、ベース、キーボード、そしてギターが二人。 そんなバックバンドを背に兼田と美紀が立っている。 メジャーではないのだから観客も少ないらしいけど、、、。
それでも少しずつ増えてきてるんだっていう。 だんだんと興味が湧いてきた。
ステージに上がる兼田と三城。 そして暗い中でギターの音が聞こえてくる。
休みの時だけって言ってたからライブなんて年末のこの時だけ。 美紀はそれまで何をしてるんだろう?
「さてさて店を閉めようかな。」 午前0時を過ぎた所でママが言ってきた。
「早いわねえ。」 「あのおっさんたちが来ない時くらい早く閉めたいわよ。」
「それもそうね。」 それからみんな揃ってグラスを洗ったりゴミ箱をきれいにしたり、、、。
敬子は兼田が持ってきたcdとチケットを大事にポシェットに入れてアパートへ向かうのでした。 「あんなことやれたらいいのになあ。」
とは言うものの昼間は内科で走り回り週末はスナックで客と酔っている今、とても無理だなって思えるのである。
静かなアパートの玄関をガラガラっと開けて中に入る。 廊下を歩いて行くと4番目が自分の部屋。
ガチャッと鍵を開けて中に入る。 冷たい空気が迫ってくる。
2dkの部屋、お風呂は近くの銭湯で。 それより何より酔った頭を投げ出したくて敬子は布団の中に寝転がった。
なんせ土曜日なんだもん。 安田内科に移った今でもこの日は休ませてもらってるの。
代わりに日曜日は朝から走り回ってます。 電話を受け、診察券を受け取り、先生の診察が終わったら薬を渡して送り出す。
何気ないことを何気なくやれる人間になりたいって子供の頃から思っていた敬子は仕事が終わるとホッとするのである。 もうすぐ30.
内科の帰りにスーパーへ寄って煮物やサラダを買ってくる。 ご飯は取り敢えず炊いてあるから大丈夫。
ペットボトルのお茶を飲みながら一人寂しく夕食を済ませる。 こんなんでいいのかな?
友達だったしおりちゃんたちは結婚したって言ってたのに、、、。 それはまだまだ先のこと。
取り合えず今はその日暮らしみたいにバタバタ走り回ってる。 私を捕まえてくれる人なんて居るのかな?
ボーっとした頭でいろいろ考えながら布団の中を転がっている。 いつか、しおりちゃんたちみたいに子供を抱っこして旦那さんと買い物デーとするような日は来るんだろうか?
この小さな町で誰にも見付けられること無く静かに死んでいくのかなあ? それとも何処かでドラマティックな出会いが待ってるのかなあ?
気が付くとそんなことばかり考えてしまって嫌になる敬子なのである。 布団を這い出してペットボトルのお茶を飲んではまた潜り込む。
(30日のライブは行ってみようかな。 せっかくチケットも貰ったんだし、、、。) 天井を見上げながら夢見る少女になってみる。
人生初のライブだ。 どうなるのかなあ?
そして30日になった。 安田内科もやっと今年の仕事が終わった。
敬子は病院を出るとコンビニでおにぎりを買ってからライブハウスへ向かった。 晦日だからなのか通りに人の姿は無い。
ライブハウスに着くと隅っこの椅子に座ってまずは腹ごしらえをする。 6時まで病院に居て閉まると同時にここまで突っ走ってきたのだ。
奥のほうではギターやらドラムやらの音が聞こえている。 兼田と美紀が話しているのもマイク越しに聞こえてくる。
「7時開演だったよな。 席を確認しないと、、、。」 敬子はチケットを取り出した。
ホールへの通路は照明に照らされて明るく見える。 さっきからファンらしい女の子たちがソワソワしながらゲートが開くのを待っている。
開場は6時45分だ。 入り口からはドドっと人の塊が流れ込んできた。
「そろそろかなあ?」 敬子もその波に乗ってみる。
そのまま押し流されるように会場に入った敬子は一番前の一番右隅の椅子に座らされてしまった。
やがて客席側の証明が消されてステージが明るくなる。 兼田が静かにギターを弾き始めた。
(これって『あの日の君のように』だったよな。) 美紀が恥ずかしそうに歌い始める。
じっと聞いていたら美紀と目が合ってしまって敬子はドキッとした。 (こんな思いは初めてだ。)
3曲ほど歌ったところで兼田がマイクを握った。 「こんばんは。 皆さん お元気ですか?」
敬子はさっきからボーっとしたまま歌を聞いていた。 何てったってライブを見るのは初めてなんだ。
しかも相手はいつも飲みに来てくれるお客さん。 まったく知らないわけじゃないから余計にボーっとしてしまう。
実はこの日、敬子の5列ほど後ろで清美もライブを見ていた。 最初はそのつもりなんか無かったのに、、、。
(敬子も行ってるんだよね 確か。) そう思ったら無性に歌を聞きたくなってライブハウスに飛び込んだんだ。
『winterlovesong』というアルバムを敬子から借りて聞いたのもほんの気紛れだったのにね。 「初めて作った割には買ってくれる人が多くて、、、。」
兼田がそう言っていたのを思い出して当日の朝、敬子のアパートを訪ねたんだ。 そんな清美もギターを弾く兼田に見惚れていた。
やがてステージはさらに明るくなり、バックバンドの面々がステージに出てきた。 粒揃いのスタジオミュージシャンたちである。
(バンドが加わるとやっぱり違うなあ。) 敬子はますます兼田と美紀の歌声に溺れていくのである。
ライブが終わる頃にはみんなと揃って立ち上がり腕がちぎれそうなくらいに手を振っていた。 会場を出た敬子は初めて清美が来ていたことに驚いた。
「清美ちゃんじゃない。 来てたの?」 「私もすっかり酔っちゃったわよ。」
互いに火照った顔を見ながら歌っている兼田のことを思い出している。 外はもう真っ暗だ。
駅前だとはいっても小さな田舎町のこと。 営業している店も無く、走っている車も無い。
なんとかタクシーを呼んで清美も敬子のアパートにやってきた。 「今夜は泊まるわ。」
部屋に落ち着いた二人は冷蔵庫から冷えたビールを取り出すとカッパえびせんを摘まみながら夜更けまで語り明かしたのであった。
「兼田君ってさあギターを持ったら意外と絵になるよね。」 「そうかなあ? 美紀ちゃんのほうがいいと思うけど、、、。」
「美紀ちゃんだって兼田君が居るからやってられるのよ。」 「そうかもだけど、、、。」
「もしかして私が兼田君の話をしたから妬いてる?」 「そんなんじゃないわよ。」
「だといいけどなあ。 あんたすぐ本気にするから。」 「そんなことは無いわよ。」
2本目のビールを飲みながら静かな部屋で向かい合っている。 今夜は清美がいつもより可愛く見えてしまう。
「敬子、私の顔に何か付いてる?」 「眼と鼻と口。」
「やだなあ。 誰だって付いてるじゃないよ。」 「そうだねえ。」
いつになく敬子も上機嫌らしい。 空き缶をテーブルに置くと畳の上に寝転がった。
すると清美が上に重なってきたからびっくり。 「いいじゃない。 今夜だけ。」
清美は敬子の服を脱がし始めた。 「あんた大きいのねえ。」
「そんなに見ないでよ。 恥ずかしいじゃない。」 「ますます可愛いわ。」
そしてその夜は熱く深く絡み合ったのである。
翌日は大晦日。 予定らしい予定も無い二人は裸のまま昼過ぎまで布団の中に居た。 「激しかったなあ。 敬子。」
「清美ちゃんだって、、、、。」 「あたしたち、やっぱり仲良かったんだなあ。」
ボトルのコーヒーを飲みながら二人は昨夜のことを思い出している。 (まさか清美と抱き合うなんて、、、。)
「夕方には帰らなきゃね。」 「何で?」
「お邪魔しちゃったから。」 「いいじゃない。 泊ってってよ。」
「いいの?」 「お風呂は無いけどさあ。」
「そうだったわね。 銭湯なのよね?」 「そうだよ。」
「元旦もやってるの?」 「あそこは火曜日だけ休みだから。」
清美は立ち上がると台所で顔を洗い始めた。 「冷たいなあ。」
「そりゃそうだよ。 冬だもん。」
お湯で絞ったタオルで互いの体を拭き合う。 「長期入院の患者さんみたい。」
「こんなことも初めてよねえ。 あたし、やっぱりあんたと友達で良かったわ。」 服を着ながら激しく求めてくる清美のことを考えてみる。
もうお互いに25歳を過ぎて世間では結婚適齢期がどうのと騒がれるお年頃である。 「敬子はさあ、結婚なんか考えたこと有るの?」
「無いわよ。 忙しかったし出会いも無いし実感すら無くて。」 「そっか。 あたしなんかずっとスナックでしょう。 一緒に働いてる女の子がどんどん辞めてくのよ。 結婚するからって。 歯がゆいの悔しいの何のって、、、。」
「清美ちゃんなら誰か居るんじゃないの?」 「ママにだってそう言われたわよ。 でもどっかで合わないんだよなあ。」
「そうかなあ? 話しも面白いし可愛いし誰か居るんじゃないの?」 「さあねえ。 私を受け入れてくれるのは敬子だけかもね。」
そう言って清美は敬子の背中に縋りつくのであります。 「子供みたいねえ。 清美って。」
敬子はそんな清美を抱っこしてみた。 「お母さん。」
甘えてくる清美が何とも可愛く意地らしく見えてくるから不思議。 敬子は清美の頭を撫でてみた。
いつの間にか清美は寝てしまったらしい。 清美を布団に寝かせると敬子は台所に立った。
「お昼 作らないとな、、、。」 冷蔵庫を漁ってみる。
うどんやら葱やら豚肉やらを取り出して二人分のうどんを作る。 (清美ちゃんと暮らしてもいいかな。)
ふとそんなことを考える。 同じ店で働いてるんだしいいよね?
今夜はうるさいおっさんたちも来ないらしいからママもどっか気が抜けたようである。
「あの人たちは来ないのかなあ?」 「清美ちゃん 思い出さないの。 思い出したらみんな揃って来ちゃうでしょう。」
「それもそうだわね。 あはは。」 敬子はふとトイレに立った。 「さあ飲むぞーーーー。」
ママが気合を入れている。 こんな夜も珍しい。
美紀は時々清美と話しながら飲んでいる。 兼田とは高校からの付き合いだそうで。
結婚までは考えてないんだけど仲良しだからって今も一緒に歌っている。 美紀が詩を書いて兼田が曲を着けているらしい。
時々はスタジオミュージシャンの先輩がアレンジをしてくれるそうで、その曲が出来上がるとバンドを連れて会いに来るんだって。
高橋千尋とか山野孝明とかいうギタリストも暮れのライブに飛び入りしてくるらしい。 だから晦日のライブには立ち見が出るって噂だ。
「ライブは何処でやってるの?」 「ああ、エターナルですよ。」
「エターナル? それって何処?」 「あれあれ? 清美さんも知らないんだっけ?」
「私さあ、ライブハウスなんて行ったこと無いから。」 「清原町駅の前ですよ。」
「あんな所にライブハウスなんて有ったっけ?」 「10年前に出来たんだって。」
「ライブか、、、。 行っていいのかな?」 「ぜひ来てください。」
12月30日と言えば日曜日。 内科も最後の日。
忘年会は火曜日にやってしまったから文句を言われることも無い。 (行ってみようかな。)
cdからは静かな歌が聞こえている。 『愛する人に出会えたら』ってタイトルらしい。
美紀は酔った顔で兼田にもたれている。 何か幸せそう。
敬子は飲みながら美紀が歌っている姿を思い浮かべてみた。 バンドも時には参加するって言ってたっけ。
ドラム、ベース、キーボード、そしてギターが二人。 そんなバックバンドを背に兼田と美紀が立っている。 メジャーではないのだから観客も少ないらしいけど、、、。
それでも少しずつ増えてきてるんだっていう。 だんだんと興味が湧いてきた。
ステージに上がる兼田と三城。 そして暗い中でギターの音が聞こえてくる。
休みの時だけって言ってたからライブなんて年末のこの時だけ。 美紀はそれまで何をしてるんだろう?
「さてさて店を閉めようかな。」 午前0時を過ぎた所でママが言ってきた。
「早いわねえ。」 「あのおっさんたちが来ない時くらい早く閉めたいわよ。」
「それもそうね。」 それからみんな揃ってグラスを洗ったりゴミ箱をきれいにしたり、、、。
敬子は兼田が持ってきたcdとチケットを大事にポシェットに入れてアパートへ向かうのでした。 「あんなことやれたらいいのになあ。」
とは言うものの昼間は内科で走り回り週末はスナックで客と酔っている今、とても無理だなって思えるのである。
静かなアパートの玄関をガラガラっと開けて中に入る。 廊下を歩いて行くと4番目が自分の部屋。
ガチャッと鍵を開けて中に入る。 冷たい空気が迫ってくる。
2dkの部屋、お風呂は近くの銭湯で。 それより何より酔った頭を投げ出したくて敬子は布団の中に寝転がった。
なんせ土曜日なんだもん。 安田内科に移った今でもこの日は休ませてもらってるの。
代わりに日曜日は朝から走り回ってます。 電話を受け、診察券を受け取り、先生の診察が終わったら薬を渡して送り出す。
何気ないことを何気なくやれる人間になりたいって子供の頃から思っていた敬子は仕事が終わるとホッとするのである。 もうすぐ30.
内科の帰りにスーパーへ寄って煮物やサラダを買ってくる。 ご飯は取り敢えず炊いてあるから大丈夫。
ペットボトルのお茶を飲みながら一人寂しく夕食を済ませる。 こんなんでいいのかな?
友達だったしおりちゃんたちは結婚したって言ってたのに、、、。 それはまだまだ先のこと。
取り合えず今はその日暮らしみたいにバタバタ走り回ってる。 私を捕まえてくれる人なんて居るのかな?
ボーっとした頭でいろいろ考えながら布団の中を転がっている。 いつか、しおりちゃんたちみたいに子供を抱っこして旦那さんと買い物デーとするような日は来るんだろうか?
この小さな町で誰にも見付けられること無く静かに死んでいくのかなあ? それとも何処かでドラマティックな出会いが待ってるのかなあ?
気が付くとそんなことばかり考えてしまって嫌になる敬子なのである。 布団を這い出してペットボトルのお茶を飲んではまた潜り込む。
(30日のライブは行ってみようかな。 せっかくチケットも貰ったんだし、、、。) 天井を見上げながら夢見る少女になってみる。
人生初のライブだ。 どうなるのかなあ?
そして30日になった。 安田内科もやっと今年の仕事が終わった。
敬子は病院を出るとコンビニでおにぎりを買ってからライブハウスへ向かった。 晦日だからなのか通りに人の姿は無い。
ライブハウスに着くと隅っこの椅子に座ってまずは腹ごしらえをする。 6時まで病院に居て閉まると同時にここまで突っ走ってきたのだ。
奥のほうではギターやらドラムやらの音が聞こえている。 兼田と美紀が話しているのもマイク越しに聞こえてくる。
「7時開演だったよな。 席を確認しないと、、、。」 敬子はチケットを取り出した。
ホールへの通路は照明に照らされて明るく見える。 さっきからファンらしい女の子たちがソワソワしながらゲートが開くのを待っている。
開場は6時45分だ。 入り口からはドドっと人の塊が流れ込んできた。
「そろそろかなあ?」 敬子もその波に乗ってみる。
そのまま押し流されるように会場に入った敬子は一番前の一番右隅の椅子に座らされてしまった。
やがて客席側の証明が消されてステージが明るくなる。 兼田が静かにギターを弾き始めた。
(これって『あの日の君のように』だったよな。) 美紀が恥ずかしそうに歌い始める。
じっと聞いていたら美紀と目が合ってしまって敬子はドキッとした。 (こんな思いは初めてだ。)
3曲ほど歌ったところで兼田がマイクを握った。 「こんばんは。 皆さん お元気ですか?」
敬子はさっきからボーっとしたまま歌を聞いていた。 何てったってライブを見るのは初めてなんだ。
しかも相手はいつも飲みに来てくれるお客さん。 まったく知らないわけじゃないから余計にボーっとしてしまう。
実はこの日、敬子の5列ほど後ろで清美もライブを見ていた。 最初はそのつもりなんか無かったのに、、、。
(敬子も行ってるんだよね 確か。) そう思ったら無性に歌を聞きたくなってライブハウスに飛び込んだんだ。
『winterlovesong』というアルバムを敬子から借りて聞いたのもほんの気紛れだったのにね。 「初めて作った割には買ってくれる人が多くて、、、。」
兼田がそう言っていたのを思い出して当日の朝、敬子のアパートを訪ねたんだ。 そんな清美もギターを弾く兼田に見惚れていた。
やがてステージはさらに明るくなり、バックバンドの面々がステージに出てきた。 粒揃いのスタジオミュージシャンたちである。
(バンドが加わるとやっぱり違うなあ。) 敬子はますます兼田と美紀の歌声に溺れていくのである。
ライブが終わる頃にはみんなと揃って立ち上がり腕がちぎれそうなくらいに手を振っていた。 会場を出た敬子は初めて清美が来ていたことに驚いた。
「清美ちゃんじゃない。 来てたの?」 「私もすっかり酔っちゃったわよ。」
互いに火照った顔を見ながら歌っている兼田のことを思い出している。 外はもう真っ暗だ。
駅前だとはいっても小さな田舎町のこと。 営業している店も無く、走っている車も無い。
なんとかタクシーを呼んで清美も敬子のアパートにやってきた。 「今夜は泊まるわ。」
部屋に落ち着いた二人は冷蔵庫から冷えたビールを取り出すとカッパえびせんを摘まみながら夜更けまで語り明かしたのであった。
「兼田君ってさあギターを持ったら意外と絵になるよね。」 「そうかなあ? 美紀ちゃんのほうがいいと思うけど、、、。」
「美紀ちゃんだって兼田君が居るからやってられるのよ。」 「そうかもだけど、、、。」
「もしかして私が兼田君の話をしたから妬いてる?」 「そんなんじゃないわよ。」
「だといいけどなあ。 あんたすぐ本気にするから。」 「そんなことは無いわよ。」
2本目のビールを飲みながら静かな部屋で向かい合っている。 今夜は清美がいつもより可愛く見えてしまう。
「敬子、私の顔に何か付いてる?」 「眼と鼻と口。」
「やだなあ。 誰だって付いてるじゃないよ。」 「そうだねえ。」
いつになく敬子も上機嫌らしい。 空き缶をテーブルに置くと畳の上に寝転がった。
すると清美が上に重なってきたからびっくり。 「いいじゃない。 今夜だけ。」
清美は敬子の服を脱がし始めた。 「あんた大きいのねえ。」
「そんなに見ないでよ。 恥ずかしいじゃない。」 「ますます可愛いわ。」
そしてその夜は熱く深く絡み合ったのである。
翌日は大晦日。 予定らしい予定も無い二人は裸のまま昼過ぎまで布団の中に居た。 「激しかったなあ。 敬子。」
「清美ちゃんだって、、、、。」 「あたしたち、やっぱり仲良かったんだなあ。」
ボトルのコーヒーを飲みながら二人は昨夜のことを思い出している。 (まさか清美と抱き合うなんて、、、。)
「夕方には帰らなきゃね。」 「何で?」
「お邪魔しちゃったから。」 「いいじゃない。 泊ってってよ。」
「いいの?」 「お風呂は無いけどさあ。」
「そうだったわね。 銭湯なのよね?」 「そうだよ。」
「元旦もやってるの?」 「あそこは火曜日だけ休みだから。」
清美は立ち上がると台所で顔を洗い始めた。 「冷たいなあ。」
「そりゃそうだよ。 冬だもん。」
お湯で絞ったタオルで互いの体を拭き合う。 「長期入院の患者さんみたい。」
「こんなことも初めてよねえ。 あたし、やっぱりあんたと友達で良かったわ。」 服を着ながら激しく求めてくる清美のことを考えてみる。
もうお互いに25歳を過ぎて世間では結婚適齢期がどうのと騒がれるお年頃である。 「敬子はさあ、結婚なんか考えたこと有るの?」
「無いわよ。 忙しかったし出会いも無いし実感すら無くて。」 「そっか。 あたしなんかずっとスナックでしょう。 一緒に働いてる女の子がどんどん辞めてくのよ。 結婚するからって。 歯がゆいの悔しいの何のって、、、。」
「清美ちゃんなら誰か居るんじゃないの?」 「ママにだってそう言われたわよ。 でもどっかで合わないんだよなあ。」
「そうかなあ? 話しも面白いし可愛いし誰か居るんじゃないの?」 「さあねえ。 私を受け入れてくれるのは敬子だけかもね。」
そう言って清美は敬子の背中に縋りつくのであります。 「子供みたいねえ。 清美って。」
敬子はそんな清美を抱っこしてみた。 「お母さん。」
甘えてくる清美が何とも可愛く意地らしく見えてくるから不思議。 敬子は清美の頭を撫でてみた。
いつの間にか清美は寝てしまったらしい。 清美を布団に寝かせると敬子は台所に立った。
「お昼 作らないとな、、、。」 冷蔵庫を漁ってみる。
うどんやら葱やら豚肉やらを取り出して二人分のうどんを作る。 (清美ちゃんと暮らしてもいいかな。)
ふとそんなことを考える。 同じ店で働いてるんだしいいよね?



