GW初日。
西園寺邸はどこか落ち着かない空気に包まれていた。
理由は一つ。
父――西園寺裕作が帰ってきたからだ。
普段の裕作は海外や国内を飛び回っており、一か月、時には数か月も屋敷へ戻らないことが珍しくない。
そのため普通の家族なら久しぶりの帰宅を喜ぶのかもしれない。
しかし六花は違った。
正直に言えば、帰ってきてほしくなかった。
だから朝、執事から裕作の帰宅を聞かされた瞬間から、六花は自室に籠城することを決めていた。
会えば必ず説教される。
勉強。
礼儀作法。
将来の進路。
政略結婚。
そして少しでも反論すれば――。
六花は無意識に左頬へ触れた。
痛みは残っていない。
だが記憶は残っている。
幼い頃から何度も。
父は躾と称して平手打ちをした。
紫苑や玲央の前ではあまりしない。
しかし二人がいない時は違った。
父にとって娘とは、
守るべき存在ではなく、
西園寺家の価値を高めるための駒だった。
少なくとも六花にはそう思えた。
だから苦手だった。
嫌いとまでは言わない。
言えない。
それでも。
怖かった。
コンコン。
部屋のドアがノックされる。
六花はびくりと肩を震わせた。
まさか。
もう見つかったのだろうか。
「……どうぞ」
恐る恐る返事をする。
するとドアが開いた。
入ってきた人物を見て、六花は少しだけ安堵する。
「優斗」
真壁優斗だった。
黒い執事服を着た少年は、六花と同い年とは思えないほど落ち着いて見える。
もっとも、彼は幼い頃から執事としての教育を受けてきたのだから当然なのかもしれない。
真壁家は代々西園寺家に仕えてきた家柄だった。
祖父も。
父も。
そして優斗も。
物心つく前からずっと一緒だった。
そのせいか、六花は優斗に対してだけは気を許していた。
最初は敬語しか使わなかった優斗に、
「二人きりの時くらい普通に話して」
と何度もお願いしたのも六花だった。
もっとも。
優斗は今でも時々敬語に戻る。
職業病みたいなものらしい。
優斗は困ったように眉を下げた。
その顔を見た瞬間。
六花は嫌な予感がした。
「……何?」
優斗は数秒黙る。
そして小さくため息を吐いた。
「六花」
その呼び方だけで察してしまう。
良い話ではない。
「会長が呼んでるぞ」
六花の表情が固まる。
やっぱり。
「大事な話があるから書斎に来い、だって」
部屋の空気が重くなる。
六花はベッドの上に座ったまま俯いた。
行きたくない。
本当に行きたくない。
せっかくのGWなのに。
どうせまた。
勉強がどうだ。
成績がどうだ。
結婚がどうだ。
そんな話に決まっている。
優斗はそんな六花を見ていた。
胸が痛んだ。
幼い頃から一緒に育ってきた。
だから分かる。
六花は今、不安なのだ。
怖いのだ。
本当なら。
本当なら連れて行きたくない。
父親と娘の久しぶりの再会なのだから本来そんな感情を抱く方がおかしいのかもしれない。
それでも優斗は知っている。
裕作がどんな人間なのか。
六花がどんな思いで父親を恐れているのか。
全部知っている。
だからこそ辛かった。
西園寺邸はどこか落ち着かない空気に包まれていた。
理由は一つ。
父――西園寺裕作が帰ってきたからだ。
普段の裕作は海外や国内を飛び回っており、一か月、時には数か月も屋敷へ戻らないことが珍しくない。
そのため普通の家族なら久しぶりの帰宅を喜ぶのかもしれない。
しかし六花は違った。
正直に言えば、帰ってきてほしくなかった。
だから朝、執事から裕作の帰宅を聞かされた瞬間から、六花は自室に籠城することを決めていた。
会えば必ず説教される。
勉強。
礼儀作法。
将来の進路。
政略結婚。
そして少しでも反論すれば――。
六花は無意識に左頬へ触れた。
痛みは残っていない。
だが記憶は残っている。
幼い頃から何度も。
父は躾と称して平手打ちをした。
紫苑や玲央の前ではあまりしない。
しかし二人がいない時は違った。
父にとって娘とは、
守るべき存在ではなく、
西園寺家の価値を高めるための駒だった。
少なくとも六花にはそう思えた。
だから苦手だった。
嫌いとまでは言わない。
言えない。
それでも。
怖かった。
コンコン。
部屋のドアがノックされる。
六花はびくりと肩を震わせた。
まさか。
もう見つかったのだろうか。
「……どうぞ」
恐る恐る返事をする。
するとドアが開いた。
入ってきた人物を見て、六花は少しだけ安堵する。
「優斗」
真壁優斗だった。
黒い執事服を着た少年は、六花と同い年とは思えないほど落ち着いて見える。
もっとも、彼は幼い頃から執事としての教育を受けてきたのだから当然なのかもしれない。
真壁家は代々西園寺家に仕えてきた家柄だった。
祖父も。
父も。
そして優斗も。
物心つく前からずっと一緒だった。
そのせいか、六花は優斗に対してだけは気を許していた。
最初は敬語しか使わなかった優斗に、
「二人きりの時くらい普通に話して」
と何度もお願いしたのも六花だった。
もっとも。
優斗は今でも時々敬語に戻る。
職業病みたいなものらしい。
優斗は困ったように眉を下げた。
その顔を見た瞬間。
六花は嫌な予感がした。
「……何?」
優斗は数秒黙る。
そして小さくため息を吐いた。
「六花」
その呼び方だけで察してしまう。
良い話ではない。
「会長が呼んでるぞ」
六花の表情が固まる。
やっぱり。
「大事な話があるから書斎に来い、だって」
部屋の空気が重くなる。
六花はベッドの上に座ったまま俯いた。
行きたくない。
本当に行きたくない。
せっかくのGWなのに。
どうせまた。
勉強がどうだ。
成績がどうだ。
結婚がどうだ。
そんな話に決まっている。
優斗はそんな六花を見ていた。
胸が痛んだ。
幼い頃から一緒に育ってきた。
だから分かる。
六花は今、不安なのだ。
怖いのだ。
本当なら。
本当なら連れて行きたくない。
父親と娘の久しぶりの再会なのだから本来そんな感情を抱く方がおかしいのかもしれない。
それでも優斗は知っている。
裕作がどんな人間なのか。
六花がどんな思いで父親を恐れているのか。
全部知っている。
だからこそ辛かった。
