【side 蓮】
「明日また六花来るな!」
「あぁ」
碧は胸の高鳴りを隠しきれていないが、翼はそっけなく返す。
「俺、明日六花に会う前にお前達に話ときたいことあんだけど……」
俺はソファの背もたれに体を預けながら、少しだけ言いづらそうに口を開いた。
幹部室の中には俺たち三人しかいない。
他の幹部連中は外でバイクをいじったり煙草を吸ったりしていて、今この部屋にいるのは翼と碧だけだった。
翼はソファで足を組みながら経済学の本を読んでいる。
碧は椅子を後ろ向きにして座り、その背もたれに顎を乗せていた。
「何?」
翼が視線も上げずに聞いてくる。
「いや……この前の暴走の時さ。」
「ああ。」
「西園寺のリムジン見たんだよ。」
その瞬間。
二人とも顔を上げた。
「は?」
「マジで?」
俺は小さく頷く。
七月上旬の暴走の日。
あの日のことは今でもよく覚えている。
交差点へ差し掛かった時だった。
反対車線の先頭で信号待ちをしている一台のリムジンが目に入った。
黒塗りのMercedes-Maybach Pullman。
普通の高級車とは明らかに格が違う。
あんな車、日本中探してもそう何台もない。
それに、前部にはベンツのマークの代わりに、西園寺の紋章が付いていた。
だから一瞬で分かった。
西園寺家だ、と。
「うわ……。」
碧が頭を抱える。
「最悪じゃん。」
「だろ?」
俺も苦笑した。
しかも。
あのリムジンは異様に目立つ。
高級感とか威圧感とか。
そういうものが全部詰め込まれている。
隣を走っていた大地なんか、完全に目を輝かせていた。
『すげぇ……』
とか呟いてたくらいだ。
田舎から初めて東京タワー見た子供かよと思った。
「で?」
翼が聞いてくる。
「六花に見られた?」
その質問に俺は顔をしかめた。
「分かんねぇ。」
正直。
本当に分からない。
西園寺のリムジンは運転席と後部座席の間にパーテーションがある。
普通なら外から中は見えない。
だから問題ないと思っていた。
だが。
俺は特攻隊長だ。
隊列の先頭を走りながら交差点を切り込んで車止めをしなきゃいけない。
あの時も。
信号が変わる直前に前へ出た。
そして。
一瞬だけ。
本当に一瞬だけ。
窓から食い入るように俺を見つめていた立花と目があったような気がする。
「もしかしたら見られたかも。」
俺がそう言うと。
幹部室が静かになった。
翼はスマホを机へ置いた。
碧も真顔になる。
しばらく沈黙。
そして。
「……いや。」
翼が口を開いた。
「たぶん大丈夫だろ。」
「そうか?」
「六花だぞ?」
「そうだよあの世間知らずの鈍子だよ」
碧も頷く。
「仮に見られてても気付いてないと思う。」
「それはある。」
俺も思わず笑ってしまった。
確かに。
六花は少し世間知らずだ。
悪い意味じゃなく。
純粋すぎる。
だから。
特攻服姿の俺たちを見ても。
『何かの怖い人たち』
くらいにしか思わないかもしれない。
だが。
その直後。
翼がふと本から視線を外して呟いた。
「でもさ。」
「ん?」
「もしバレたら。」
「……。」
「六花、泣くかな。」
その言葉に。
俺と碧は少しだけ考え込んだ。
六花は暴走族という存在をよく知らないはず。
だからこそ。
自分たちが黒龍の幹部だと知った時。
どんな顔をするのだろう。
軽蔑するのか。
怖がるのか。
それとも―――。
「……分かんねぇな。」
俺は正直にそう答えた。
けれど。
一つだけ分かることがある。
明日。
六花がまた道明寺家へ来る。
そのことを思い出しただけで。
なぜか少しだけ胸が高鳴っている自分がいた。
「明日また六花来るな!」
「あぁ」
碧は胸の高鳴りを隠しきれていないが、翼はそっけなく返す。
「俺、明日六花に会う前にお前達に話ときたいことあんだけど……」
俺はソファの背もたれに体を預けながら、少しだけ言いづらそうに口を開いた。
幹部室の中には俺たち三人しかいない。
他の幹部連中は外でバイクをいじったり煙草を吸ったりしていて、今この部屋にいるのは翼と碧だけだった。
翼はソファで足を組みながら経済学の本を読んでいる。
碧は椅子を後ろ向きにして座り、その背もたれに顎を乗せていた。
「何?」
翼が視線も上げずに聞いてくる。
「いや……この前の暴走の時さ。」
「ああ。」
「西園寺のリムジン見たんだよ。」
その瞬間。
二人とも顔を上げた。
「は?」
「マジで?」
俺は小さく頷く。
七月上旬の暴走の日。
あの日のことは今でもよく覚えている。
交差点へ差し掛かった時だった。
反対車線の先頭で信号待ちをしている一台のリムジンが目に入った。
黒塗りのMercedes-Maybach Pullman。
普通の高級車とは明らかに格が違う。
あんな車、日本中探してもそう何台もない。
それに、前部にはベンツのマークの代わりに、西園寺の紋章が付いていた。
だから一瞬で分かった。
西園寺家だ、と。
「うわ……。」
碧が頭を抱える。
「最悪じゃん。」
「だろ?」
俺も苦笑した。
しかも。
あのリムジンは異様に目立つ。
高級感とか威圧感とか。
そういうものが全部詰め込まれている。
隣を走っていた大地なんか、完全に目を輝かせていた。
『すげぇ……』
とか呟いてたくらいだ。
田舎から初めて東京タワー見た子供かよと思った。
「で?」
翼が聞いてくる。
「六花に見られた?」
その質問に俺は顔をしかめた。
「分かんねぇ。」
正直。
本当に分からない。
西園寺のリムジンは運転席と後部座席の間にパーテーションがある。
普通なら外から中は見えない。
だから問題ないと思っていた。
だが。
俺は特攻隊長だ。
隊列の先頭を走りながら交差点を切り込んで車止めをしなきゃいけない。
あの時も。
信号が変わる直前に前へ出た。
そして。
一瞬だけ。
本当に一瞬だけ。
窓から食い入るように俺を見つめていた立花と目があったような気がする。
「もしかしたら見られたかも。」
俺がそう言うと。
幹部室が静かになった。
翼はスマホを机へ置いた。
碧も真顔になる。
しばらく沈黙。
そして。
「……いや。」
翼が口を開いた。
「たぶん大丈夫だろ。」
「そうか?」
「六花だぞ?」
「そうだよあの世間知らずの鈍子だよ」
碧も頷く。
「仮に見られてても気付いてないと思う。」
「それはある。」
俺も思わず笑ってしまった。
確かに。
六花は少し世間知らずだ。
悪い意味じゃなく。
純粋すぎる。
だから。
特攻服姿の俺たちを見ても。
『何かの怖い人たち』
くらいにしか思わないかもしれない。
だが。
その直後。
翼がふと本から視線を外して呟いた。
「でもさ。」
「ん?」
「もしバレたら。」
「……。」
「六花、泣くかな。」
その言葉に。
俺と碧は少しだけ考え込んだ。
六花は暴走族という存在をよく知らないはず。
だからこそ。
自分たちが黒龍の幹部だと知った時。
どんな顔をするのだろう。
軽蔑するのか。
怖がるのか。
それとも―――。
「……分かんねぇな。」
俺は正直にそう答えた。
けれど。
一つだけ分かることがある。
明日。
六花がまた道明寺家へ来る。
そのことを思い出しただけで。
なぜか少しだけ胸が高鳴っている自分がいた。
