そして。
今度は玲央兄様が立ち上がった。
「次は俺だ。」
嫌な予感しかしない。
玲央兄様は机の上に封筒を置いた。
「ほら。」
「何ですか?」
「チケット。」
中を見る。
私は目を見開いた。
東京ドーム。
関係者席。
しかも最前列に近い場所。
「えっ。」
「ドームツアー。」
玲央兄様は当然のように言った。
「八月上旬。」
「聞いています。」
「来い。」
「え?」
「二日とも。」
「二日ともですか?」
「当たり前だろ。」
私は封筒の中を確認した。
一枚。
二枚。
三枚。
四枚。
さらに。
もう四枚。
合計八枚。
「多くないですか?」
「お前一人じゃねぇ。」
玲央兄様は鼻で笑う。
「お前と。」
私を指差す。
「三つ子。」
「え?」
「四人で来い。」
「どうしてですか。」
「どうせ暇だろ。」
「暇じゃありません。」
「来い。」
「強引ですね。」
「当たり前だろ。」
玲央兄様は不敵に笑った。
「せっかくだ。」
「俺がどれだけ凄いか見せてやる。」
私は思わず呆れてしまう。
相変わらず自信満々だ。
けれど。
どこか楽しそうにも見えた。
本当は。
忙しくて夏休み中ほとんど会えないから。
少しでも六花との時間を作りたい。
そんな理由なのかもしれない。
もちろん。
本人は絶対認めないだろうけれど。
部屋にはしばらく賑やかな時間が流れた。
そして。
その様子を見ながら。
優斗は静かに荷物を閉じる。
表情はいつも通り穏やかだった。
けれど。
胸の中は全く穏やかではなかった。
明日から。
六花はまた道明寺家へ行く。
今度は十日間ではない。
夏休みの大部分を向こうで過ごすことになる。
しかも。
前回とは違う。
あの三つ子は。
確実に六花に興味を持ち始めている。
優斗にはそれが分かっていた。
そして。
六花の方も。
気付いていないだけで。
少しずつ変わり始めている。
もし。
もしも。
この夏。
六花が誰かを本気で好きになったら。
もし。
三つ子の誰かに恋をしてしまったら。
その時。
自分はどんな顔で執事を続ければいいのだろう。
幼い頃からずっと隣にいた。
どんな時もそばにいた。
それなのに。
最後に六花の隣へ立つのは自分ではない。
そんな未来を想像しただけで胸が苦しくなる。
けれど。
答えは出ない。
出るはずもない。
優斗は誰にも気付かれないように小さく息を吐いた。
そして。
楽しそうに言い争う兄妹三人を見つめながら。
心の中で静かに願った。
せめて。
この夏が終わるまで。
六花がまだ誰のものにもなりませんように、と。
今度は玲央兄様が立ち上がった。
「次は俺だ。」
嫌な予感しかしない。
玲央兄様は机の上に封筒を置いた。
「ほら。」
「何ですか?」
「チケット。」
中を見る。
私は目を見開いた。
東京ドーム。
関係者席。
しかも最前列に近い場所。
「えっ。」
「ドームツアー。」
玲央兄様は当然のように言った。
「八月上旬。」
「聞いています。」
「来い。」
「え?」
「二日とも。」
「二日ともですか?」
「当たり前だろ。」
私は封筒の中を確認した。
一枚。
二枚。
三枚。
四枚。
さらに。
もう四枚。
合計八枚。
「多くないですか?」
「お前一人じゃねぇ。」
玲央兄様は鼻で笑う。
「お前と。」
私を指差す。
「三つ子。」
「え?」
「四人で来い。」
「どうしてですか。」
「どうせ暇だろ。」
「暇じゃありません。」
「来い。」
「強引ですね。」
「当たり前だろ。」
玲央兄様は不敵に笑った。
「せっかくだ。」
「俺がどれだけ凄いか見せてやる。」
私は思わず呆れてしまう。
相変わらず自信満々だ。
けれど。
どこか楽しそうにも見えた。
本当は。
忙しくて夏休み中ほとんど会えないから。
少しでも六花との時間を作りたい。
そんな理由なのかもしれない。
もちろん。
本人は絶対認めないだろうけれど。
部屋にはしばらく賑やかな時間が流れた。
そして。
その様子を見ながら。
優斗は静かに荷物を閉じる。
表情はいつも通り穏やかだった。
けれど。
胸の中は全く穏やかではなかった。
明日から。
六花はまた道明寺家へ行く。
今度は十日間ではない。
夏休みの大部分を向こうで過ごすことになる。
しかも。
前回とは違う。
あの三つ子は。
確実に六花に興味を持ち始めている。
優斗にはそれが分かっていた。
そして。
六花の方も。
気付いていないだけで。
少しずつ変わり始めている。
もし。
もしも。
この夏。
六花が誰かを本気で好きになったら。
もし。
三つ子の誰かに恋をしてしまったら。
その時。
自分はどんな顔で執事を続ければいいのだろう。
幼い頃からずっと隣にいた。
どんな時もそばにいた。
それなのに。
最後に六花の隣へ立つのは自分ではない。
そんな未来を想像しただけで胸が苦しくなる。
けれど。
答えは出ない。
出るはずもない。
優斗は誰にも気付かれないように小さく息を吐いた。
そして。
楽しそうに言い争う兄妹三人を見つめながら。
心の中で静かに願った。
せめて。
この夏が終わるまで。
六花がまだ誰のものにもなりませんように、と。
