【新作】財閥令嬢の私が、三つ子の不良御曹司に世界を教えられるなんて

私の部屋では、ようやく荷造りが終わろうとしていた。

大きなトランクが二つ並び、その横では優斗が忘れ物がないか最終確認をしている。

そして。

なぜか。

紫苑兄様と玲央兄様はまだ部屋に居座っていた。

「紫苑兄様、もう大丈夫ですから。」

私がそう言っても。

紫苑兄様は真剣な顔で首を横に振る。

「大丈夫じゃない。」

「大丈夫です。」

「大丈夫じゃない。」

「大丈夫です。」

「六花はまだ自分がどれだけ可愛いか理解していない。」

「また始まりました……。」

私は額を押さえた。

すると紫苑兄様は咳払いを一つして、まるで重要な契約内容を説明するような口調で言った。

「まず毎晩電話。」

「嫌です。」

「毎晩電話。」

「必要ありません。」

「毎晩電話。」

「だから必要ありません!」

私は思わず声を上げる。

しかし紫苑兄様は微動だにしなかった。

「六花。」

「はい。」

「次期会長命令だ。」

「…………。」

反論が止まる。

ずるい。

あまりにもずるい。

西園寺グループの後継者である紫苑兄様は、本当に困った時だけその肩書きを武器にするのだ。

しかも。

私にだけ。

「毎晩、最低三十分。」

「長すぎます。」

「二十分。」

「十分。」

「二十五分。」

「交渉になっていません。」

「二十分。」

「……分かりました。」

結局押し切られた。

紫苑兄様は満足そうに頷く。

「それと。」

嫌な予感がした。

「俺の休日にはディナー。」

「え?」

「断らない。」

「いや、夏休み中ずっと道明寺家にいるんですよ?」

「迎えに行く。」

「そんな気軽に言わないでください。」

「道明寺家には俺から連絡しておく。」

「勝手に決めないでください!」

しかし紫苑兄様は完全に聞いていなかった。

もう決定事項らしい。

私は小さくため息を吐くしかなかった。

その様子を見ていた優斗は、荷物を整理しながら苦笑している。