【side 玲央】
玲央が六花からの電話を切ったのは、音楽番組の本番30分前だった。
都内のテレビ局。
人気アイドルグループの控え室。
先ほどまで王子様スマイルでスタッフや共演者に挨拶をしていた玲央は、通話終了と同時にスマートフォンをポケットへ放り込んだ。
そして盛大に舌打ちした。
「チッ」
近くで台本を読んでいた同じグループのお笑い担当、涼介が顔を上げる。
「うわ、出た」
「何が」
「妹ちゃん絡み限定の治安の悪い玲央」
玲央は鼻で笑う。
その時点で答えになっていた。
涼介は呆れたように肩を竦める。
「今の電話、妹ちゃんからだろ?」
「あ?」
「いつもと着信音違ったし」
玲央は一瞬だけ眉を上げた。
よく見ている。
六花専用の着信音だけは特別に設定していることに気づいているメンバーは少ない。
そもそも六花が俺に電話をかけてくることが滅多にないからだ。
「そ」
玲央はペットボトルの水を一口飲む。
「何の用だったんだよ」
涼介が興味本位で聞く。
すると玲央は不機嫌そうな顔のまま答えた。
「あのバカ、平民と下賤の巣窟行くとか言いやがって」
涼介は三秒ほど固まった。
「は?」
玲央は黙る。
涼介はさらに困惑する。
「いや待て」
「何だよ」
「翻訳してくれないと分かんない」
玲央は面倒臭そうにため息をついた。
「だから」
そして当然のように言う。
「六花が学校の友達と放課後にファミレス行くとか言い出したんだよ」
「それのどこが問題なんだ」
「全部だろ」
即答だった。
涼介は頭を抱えた。
玲央は続ける。
「ま、もちろん却下したけどな」
「うわ」
「今頃あいつは佐々木に強制送還されてるだろ」
「言い方」
涼介は思わず突っ込む。
だが玲央は本気だった。
六花がファミレス。
想像しただけで頭が痛くなる。
そもそも六花は世間知らずだ。
人を疑うことを知らない。
誰にでも優しい。
すぐ騙される。
すぐ利用される。
だから危ない。
玲央の中ではそれが絶対的な事実だった。
六花は自覚していないが、あの容姿だけでも十分危険なのだ。
ましてや普通の高校生が集まる場所など論外だった。
涼介が呆れたように言う。
「お堅いなぁ」
「何が」
「ファミレスくらい許してやれよ」
玲央は本気で理解できなかった。
許す?
何を?
危険地帯への侵入をか?
六花を野放しにすることをか?
意味が分からない。
「んなことしたら俺の六花が汚れるだろ」
涼介が吹き出した。
「お前今さらっとヤバいこと言ったぞ」
玲央は気にしない。
「本当は屋敷に閉じ込めておきたいのに学校に通わせてやってるだけ俺は優しいだろ」
「優しくねぇよ!」
控え室にいた他のメンバーまで反応した。
玲央だけが真顔だった。
本気だからである。
実際、玲央からすれば高校に通わせている時点で十分譲歩していた。
本音を言えば家庭教師だけでいい。
オンライン授業でもいい。
大学だって別に行かなくていい。
ずっと安全な場所にいればいい。
六花が怪我をする可能性も。
嫌な思いをする可能性も。
誰かに泣かされる可能性も。
全部消える。
それの何が悪いのか玲央には分からなかった。
涼介は遠い目をした。
「あーもうお前のファンが可哀想になってくる」
「あ?」
「テレビでは愛想振り撒いてるのに妹ちゃんのことになったらすぐこれだもんなぁ」
玲央は鼻で笑う。
そしてソファにもたれた。
「何言ってんだ」
「ん?」
「俺は正真正銘大人気アイドル、BLAZE(ブレイズ)の不動のセンター、顔も性格も王子様なREOだけど何か?」
涼介は数秒黙った。
その後。
「はーい。もういいや」
完全に諦めた声だった。
玲央は肩を竦める。
理解されなくても別に構わない。
どうせ誰にも分からない。
六花は特別だ。
世界中の誰よりも。
だから守らなければならない。
自分が。
誰よりも。
何よりも。
そう思っていること自体が歪んでいるなどとは、玲央は微塵も考えていなかった。
【side 玲央 fin 】
玲央が六花からの電話を切ったのは、音楽番組の本番30分前だった。
都内のテレビ局。
人気アイドルグループの控え室。
先ほどまで王子様スマイルでスタッフや共演者に挨拶をしていた玲央は、通話終了と同時にスマートフォンをポケットへ放り込んだ。
そして盛大に舌打ちした。
「チッ」
近くで台本を読んでいた同じグループのお笑い担当、涼介が顔を上げる。
「うわ、出た」
「何が」
「妹ちゃん絡み限定の治安の悪い玲央」
玲央は鼻で笑う。
その時点で答えになっていた。
涼介は呆れたように肩を竦める。
「今の電話、妹ちゃんからだろ?」
「あ?」
「いつもと着信音違ったし」
玲央は一瞬だけ眉を上げた。
よく見ている。
六花専用の着信音だけは特別に設定していることに気づいているメンバーは少ない。
そもそも六花が俺に電話をかけてくることが滅多にないからだ。
「そ」
玲央はペットボトルの水を一口飲む。
「何の用だったんだよ」
涼介が興味本位で聞く。
すると玲央は不機嫌そうな顔のまま答えた。
「あのバカ、平民と下賤の巣窟行くとか言いやがって」
涼介は三秒ほど固まった。
「は?」
玲央は黙る。
涼介はさらに困惑する。
「いや待て」
「何だよ」
「翻訳してくれないと分かんない」
玲央は面倒臭そうにため息をついた。
「だから」
そして当然のように言う。
「六花が学校の友達と放課後にファミレス行くとか言い出したんだよ」
「それのどこが問題なんだ」
「全部だろ」
即答だった。
涼介は頭を抱えた。
玲央は続ける。
「ま、もちろん却下したけどな」
「うわ」
「今頃あいつは佐々木に強制送還されてるだろ」
「言い方」
涼介は思わず突っ込む。
だが玲央は本気だった。
六花がファミレス。
想像しただけで頭が痛くなる。
そもそも六花は世間知らずだ。
人を疑うことを知らない。
誰にでも優しい。
すぐ騙される。
すぐ利用される。
だから危ない。
玲央の中ではそれが絶対的な事実だった。
六花は自覚していないが、あの容姿だけでも十分危険なのだ。
ましてや普通の高校生が集まる場所など論外だった。
涼介が呆れたように言う。
「お堅いなぁ」
「何が」
「ファミレスくらい許してやれよ」
玲央は本気で理解できなかった。
許す?
何を?
危険地帯への侵入をか?
六花を野放しにすることをか?
意味が分からない。
「んなことしたら俺の六花が汚れるだろ」
涼介が吹き出した。
「お前今さらっとヤバいこと言ったぞ」
玲央は気にしない。
「本当は屋敷に閉じ込めておきたいのに学校に通わせてやってるだけ俺は優しいだろ」
「優しくねぇよ!」
控え室にいた他のメンバーまで反応した。
玲央だけが真顔だった。
本気だからである。
実際、玲央からすれば高校に通わせている時点で十分譲歩していた。
本音を言えば家庭教師だけでいい。
オンライン授業でもいい。
大学だって別に行かなくていい。
ずっと安全な場所にいればいい。
六花が怪我をする可能性も。
嫌な思いをする可能性も。
誰かに泣かされる可能性も。
全部消える。
それの何が悪いのか玲央には分からなかった。
涼介は遠い目をした。
「あーもうお前のファンが可哀想になってくる」
「あ?」
「テレビでは愛想振り撒いてるのに妹ちゃんのことになったらすぐこれだもんなぁ」
玲央は鼻で笑う。
そしてソファにもたれた。
「何言ってんだ」
「ん?」
「俺は正真正銘大人気アイドル、BLAZE(ブレイズ)の不動のセンター、顔も性格も王子様なREOだけど何か?」
涼介は数秒黙った。
その後。
「はーい。もういいや」
完全に諦めた声だった。
玲央は肩を竦める。
理解されなくても別に構わない。
どうせ誰にも分からない。
六花は特別だ。
世界中の誰よりも。
だから守らなければならない。
自分が。
誰よりも。
何よりも。
そう思っていること自体が歪んでいるなどとは、玲央は微塵も考えていなかった。
【side 玲央 fin 】
