財閥令嬢の私が、三つ子の不良御曹司に世界を教えられるなんて

お父様は私を見る。

 感情の読めない冷たい瞳で。

 「久しぶりだな」

 私は反射的に微笑みを作った。

 幼い頃から身につけた仮面。

 私の身を守るための仮面。

 「はい。久方ぶりのご来訪、心待ちにしておりました」

 もちろん嘘だった。

 心の底から嘘だった。

 けれど本音を言ったところで何も変わらない。

 むしろ面倒になるだけだ。

 だから私は完璧な令嬢を演じる。

 お父様の望む娘を。

 お父様は特に何も言わなかった。

 嘘だと分かっているのかもしれない。

 いや、興味すらないんだろう。

 「とりあえず座りなさい」

 「はい」

 私はお父様の向かいの椅子へ腰を下ろした。

 膝の上で両手を重ねて姿勢を整え、まっすぐお父様の方をみて、お父様の値踏みするような視線に耐えていた。

 「お前を呼んだのは、お前の結婚について話すためだ」

 結婚。

 その言葉に私は少しだけ目を伏せた。

 驚きはない。

 いつか来る話だと分かっていた。

 西園寺家の娘として生まれた時点で、私の結婚は恋愛ではなく取引になるのだろうと理解していた。

 それでも。実際に口にされると胸が重くなる。

 「お前は道明寺家に嫁に出すことに決めた。高校を卒業したらすぐに結婚してもらう」

 その声は淡々としていた。

 まるで来月の予定を説明するかのように。

 道明寺。

 私は頭の中でその名前を反芻した。

 道明寺グループ。

 世界各国に拠点を持つ巨大多国籍企業。

 西園寺財閥と同じく四大財閥の一つ。

 正直、驚きはなかった。