財閥令嬢の私が、三つ子の不良御曹司に世界を教えられるなんて

十日間という時間は、長いようでいて驚くほどあっという間だった。



道明寺家へ来た初日。



私は三つ子の皆様から露骨に距離を置かれていた。



話しかけても素っ気ない。



質問しても短い返事しか返ってこない。



翼様に至っては、「どうせ親の命令で来たんだろ」と、私を見るたびにどこか冷めた目を向けていた。



だから正直に言うと。



最初の数日はとても不安だった。



お父様からは誰かを射止めてこいと言われている。



けれど当の本人たちからは歓迎されていない。



どうしたら良いのか分からなかった。



しかし。



不思議なものだった。



一緒に食事をして。



一緒に買い物へ行って。



毎日顔を合わせて。



話をしているうちに。



少しずつ距離は縮まっていった。



最も変化したのは翼様だったと思う。



最初は私が話しかけても「へぇ」とか「そうか」とかしか返してくれなかったのに、今では自分から話題を振ってくださることもある。



もっとも。



口調は相変わらずぶっきらぼうだったけれど。



それでも最初の頃とは比べものにならない。



蓮様は最初から比較的話しやすかった。



というより。



途中から妙に私をからかうようになった。



私が知らないことを話題にして反応を楽しんだり。



世間知らずだと笑われたり。



フードコートの一件以降は特にそうだった。



けれど。



不思議と嫌な気はしなかった。



蓮様は意地悪そうに見えて、意外と面倒見が良いのだ。



そして碧様。



碧様は最初から最後まで一番穏やかだった。



口数は多くない。



けれど私が困っている時は自然と助けてくださる。



しかも。



私が何か失敗してもほとんど笑わない。



そのため私は三人の中では一番相談しやすかった。



そんな毎日を過ごしているうちに。



気付けば十日が経っていた。



GW最終日。



私は道明寺家の客室で荷物をまとめながら小さく息を吐いた。



本当なら。



早く西園寺家へ帰りたいと思うべきなのだろう。



優斗にも会いたい。



使用人の皆にも会いたい。



慣れ親しんだ部屋も恋しい。



けれど。



胸の奥には少しだけ寂しさがあった。



もう少しここにいたかった。



そんな風に思っている自分に気付いてしまったのだ。



コンコン。



その時。



客室の扉がノックされた。



「はい」



扉が開く。



現れたのは蓮様だった。



「荷造り終わった?」



「もう少しです」



「ふーん」



蓮様は部屋の中へ入ってくる。



そしてベッドの上に置かれたスーツケースを見る。



「帰るのか」



その言葉に。



なぜか少しだけ胸が締め付けられた。



「はい」



私が答えると。



蓮様は少しだけ視線を逸らした。



「そっか」



短い言葉だった。



けれど。



その声はどこか寂しそうに聞こえた。



その頃。



廊下では。



翼が壁にもたれながら客室の方を見ていた。



そして。



さらに少し離れた場所では碧が立ち止まっていた。



三人とも。



気付いていた。



十日前。



西園寺六花は政略結婚の候補としてやって来た。



しかし今は違う。



少なくとも。



彼女が屋敷からいなくなることを。



三人とも少しだけ残念に思っていた。