財閥令嬢の私が、三つ子の不良御曹司に世界を教えられるなんて

 ところが、

 コンコンコン。

 ノック音が聞こえる。

 もう見つかったのだろうか。

 「……どうぞ」

 恐る恐る返事をする。

 ドアを入ってきた人物を見て、私は安堵した。

 「優斗」

 真壁優斗だった。

 黒い燕尾服を着た青年は、私と同い年とは思えないほど落ち着いて見える。

 もっとも、彼は幼い頃から執事としての教育を受けてきて、今は私が学校に行っている間に、バトラー養成高校に通っているのだから当然かもしれない。

 真壁家は代々西園寺家に仕えてきた家柄だった。

 祖父も。

 父も。

 そして優斗も。

 物心つく前からずっと一緒だった。

 そのせいか、私は優斗に対してだけは素の私でいられる気がしている。

 最初は敬語しか使わなかった優斗に、

 「二人きりの時くらい普通に話して」

 と何度もお願いしたのも私。

 もっとも、優斗は今でも時々敬語に戻る。

 職業病みたいなものらしい。

 優斗は困ったように眉を下げた。

 その顔を見た瞬間、何か嫌な予感がした。

 「……何?」

 優斗は数秒黙る。

 そして小さくため息を吐いて口を開いた。

 「六花、旦那様が呼んでるぞ」

 やっぱり。

 「大事な話があるから書斎に来い、だって」

 部屋の空気が重くなる。

 私はベッド脇に腰掛けたまま俯いた。

 行きたくない。

 本当に行きたくない。

 せっかくのGWなのに。

 どうせまた。

 成績がどうだ。

 結婚がどうだ。

 容姿がどうだ。

 一通りの話をされて、あとはお父様の気の済むまで躾られるだけ。

 考えるだけでため息が出る。