【新作】財閥令嬢の私が、三つ子の不良御曹司に世界を教えられるなんて

俺はとんかつを食べながら六花の話を聞いていた。

正直。

さっきから西園寺家の情報量が多すぎる。



紫苑さんは重度のシスコン。



六花はガラケー。



運転手は平民連呼。



もうこれ以上驚くことはないだろうと思っていた。



だが。



蓮が何気なく聞いた。



「じゃあ玲央さんもこんな感じなの?」



その瞬間だった。



六花の表情が変わる。



さっきまでの紫苑さんの話をしていた時とは明らかに違う。



不満が溜まりに溜まっている人間の顔だ。



「玲央兄様は全然違います!」



俺と蓮と碧は同時に顔を上げた。



何だその勢い。



六花はフォークを握ったまま続ける。



「テレビの中では王子様キャラですけど、私に対しては冷たいですし!」



「へぇ」



それは少し意外だった。



玲央さんと言えば国民的アイドルだ。



完璧な笑顔。



完璧な対応。



完璧なビジュアル。



ファンの前では非の打ち所がない。



だが六花は続ける。



「言葉遣いも荒いです!」



「マジで?」

蓮が聞く。



「本当です!」



六花は即答した。



「仕事が忙しくてたまにしか屋敷に帰ってこないのに、会うたびに『ブス』とか『バカ』とか言われますし」



俺は箸を止めた。



「ブス?」



「はい」



「お前に?」



「私にです」



沈黙。

俺。

蓮。

碧。



三人とも六花を見る。



そして同じことを思った。



いや。



どこが?



六花はどう考えても美少女だった。



街を歩けば振り返られるレベルだ。



それをブス。



意味が分からない。



蓮も同じことを考えたらしい。



「玲央さん目悪いの?」



「良いと思います」



「じゃあ美的感覚がおかしいんだな」



「そうだと嬉しいです」



六花が真面目に頷く。



俺は吹き出しそうになった。



碧も口元を押さえている。



しかし六花の不満はまだ終わらなかった。



「それだけじゃありません」



嫌な予感がする。



「コーヒー淹れて、とか」



「うん」



「背中流して、とか」



「は?」



俺は思わず聞き返した。



背中?



今なんて?



「私のことをメイドみたいに扱ってくるんです!」



六花は完全に被害者の顔だった。



蓮が大笑いしている。



「背中流してって何だよそれ!」



「知りません!」



六花も珍しく声を大きくする。



「しかも私のことを名前で呼ばないんです!」



「何て呼ぶの?」



俺が聞く。



六花は即答した。



「いつも『おい、ブス』です」



数秒。



誰も何も言えなかった。



そして。



蓮が吹き出した。



「ぶっ!」



碧も肩を震わせる。



俺も耐えられない。



「いや待て」



「本当なんです!」



「いや、お前」



「本当なんです!」



六花は必死だった。



しかし。



その必死さが逆に面白い。



だって目の前にいるのは、

どう見てもブスじゃない。



むしろ玲央さんと同じく、

どこへ出しても通用するレベルの美形だ。



だから余計に意味が分からない。



「それ絶対ブスだと思って言ってないだろ」

俺は断言した。



「え?」



「ただの愛称だろ」



「そんな愛称嫌です!」



即答だった。



蓮がまた笑う。



碧も珍しく口元が緩んでいる。



六花だけが納得していない。



俺はそんな様子を見ながら、

ふと考えた。



玲央さんも。



紫苑さんも。



やり方は全く違う。



正反対と言っていい。



なのに。



どちらも異常なレベルで六花を気にしている。



本人たちは気付いていないのかもしれないが。



傍から見れば一目瞭然だった。



そして。



そんな兄たちに囲まれて育ったせいなのか。
六花は自分がどれだけ大切にされているのか、全く理解していないようだった。