【新作】財閥令嬢の私が、三つ子の不良御曹司に世界を教えられるなんて

俺は正直、まだ六花を完全には信用していなかった。

だが。

さっきの電話を聞いてから、少なくとも今まで抱いていた印象は大きく揺らいでいた。



西園寺家。



俺たちと同じ大規模財閥。



そして六花は、その一人娘。



だからもっと傲慢で。

もっと選民思想が強くて。

もっと世間を見下している人間だと思っていた。



けれど実際は違った。



むしろ見下しているのは周囲の方だった。



兄も。

運転手も。

使用人も。



六花自身は案外まともだ。



まともすぎて、西園寺家の中で浮いているんじゃないかと思うくらいに。



そんなことを考えながら、とんかつを一口食べる。



そしてようやく昼食が始まった。



「なあ」



俺は箸を置く。



聞きたいことが多すぎた。



「いろいろ聞きたいことがありすぎるんだけど」



六花が顔を上げる。



「はい?」



「とりあえず、なんでスマホじゃなくてガラケーなんだ?」



さっきから気になって仕方がなかった。



財閥令嬢がガラケー。



時代が十年以上止まっている。



六花はきょとんとした。



まるで当たり前の質問をされたみたいな顔だった。



「紫苑兄様が、インターネットは危ないっておっしゃっていて……」



「は?」



思わず声が出た。



六花は気にせず続ける。



「実際、私は携帯を運転手と執事、それからお兄様たちとの電話やメールにしか使いませんし」



「うん」



「特に不便も感じないので」



「なるほど」



俺は頷いた。



表面上は。



内心は全くなるほどじゃない。



(いや、紫苑さんってそんな人だったの?)



俺の中の紫苑さんは、

若くして西園寺グループ本社幹部を務める超エリートだった。



冷静。

知的。

合理的。



そんなイメージだった。



しかし今聞いた話だと、

妹にガラケーを持たせている重度のシスコンである。



情報量が多い。



かなり多い。



俺の中の紫苑さん像が音を立てて崩れていく。



すると蓮も気になったらしい。



「今の電話は何だったんだ?」



六花はパスタを巻きながら答える。



「えっと……」



少しだけ恥ずかしそうに視線を逸らした。



「紫苑兄様が私の声を聞きたいからって、仕事の合間にかけてきたんです」



沈黙。



俺。

蓮。

碧。



三人とも固まる。



「声を聞きたいから?」



俺が確認する。



「はい」



「それだけ?」



「それだけです」



「緊急の用事とかじゃなくて?」



「違います」



「仕事の相談とかでもなく?」



「違います」



「本当に?」



「本当です」



俺は黙った。



蓮も黙った。



碧も黙った。



そして。



碧がぽつりと言う。



「紫苑さんってシスコンだったんだ……」



心の底から衝撃を受けている顔だった。



「なんか憧れのイメージが崩れ去ったよ」



俺と蓮は即座に頷く。



「「俺も」」



さっきまで財界の若き天才だった男が、

今や『妹の声を聞きたくて仕事中に電話してくる男』になっている。



落差が酷い。



六花は不思議そうな顔をした。



「そうですか?」



「そうだよ」

俺は断言した。



「かなりそうだよ」



「でも紫苑兄様は昔からああですし……」



慣れというのは恐ろしい。



六花は全く異常だと思ってないらしい。