フードコートへ到着して十分後。
俺たちはある結論に達していた。
六花に一人で注文させるのは無理だ。
最初は社会勉強のつもりだった。
自分で店を選んで。
自分で注文して。
自分で会計して。
自分で料理を運ぶ。
普通の人間なら何の問題もない。
しかし。
「先にお代金を払うんですか?」
とか。
「席は予約しなくてもよろしいのですか?」
とか。
「お料理を持ったまま歩くんですか?」
とか。
本気で聞いてくる。
冗談ではない。
全部本気だ。
翼も途中から頭を抱えていた。
「こいつ本当に十五年間どうやって生きてきたんだ」
俺も知りたい。
碧は碧で、
「天然記念物」
とか失礼なことを言っていた。
結局。
六花には好き嫌いだけ聞いて、
じゃんけんで負けた奴が六花の分も買ってくることになった。
「では、じゃんけんをするのですね」
なぜか六花だけ少し楽しそうだった。
そして。
負けた。
俺が。
「よし」
翼が満足そうに言う。
「任せた」
「頑張って」
碧まで言う。
絶対こいつら最初から俺に押し付ける気だっただろ。
六花は申し訳なさそうにこちらを見ていた。
「ご、ごめんなさい」
「お前のせいじゃねぇよ」
実際そうだった。
俺は立ち上がりながら聞く。
「嫌いなもんある?」
六花は少し考えた。
「特にはありません」
「アレルギーは?」
「ありません」
「じゃあ適当に選ぶぞ」
「はい」
六花は素直に頷いた。
その返事を聞きながら俺は店を回る。
最初に頭へ浮かんだのはラーメンだった。
俺自身が食べたいから。
でも。
やめた。
六花がラーメン食ってる姿が全く想像できない。
ハンバーガーも無理そうだ。
かぶりつく六花。
想像できない。
牛丼も違う。
刺激が強そうだ。
結局。
一番無難そうなパスタにした。
これなら失敗しないだろう。
俺はラーメン。
翼はとんかつ定食。
碧は天津飯。
それぞれ料理を受け取り、
トレーを持って席へ戻る。
遠くから六花の姿が見えた。
執事とボディーガードに囲まれている。
その光景だけ見ると、
どこかの国のお姫様みたいだった。
いや。
実際かなり近いのかもしれない。
しかし。
六花はそんな周囲のことなど気にせず、
フードコートを見回していた。
子供みたいに。
好奇心丸出しで。
なんというか。
危機感がない。
俺たちが席へ近付く。
「買ってきたぞ」
六花の顔がぱっと明るくなった。
「ありがとうございます!」
その笑顔に少しだけ驚く。
こんなことでここまで喜ぶのか。
俺は六花の前へパスタを置く。
「どうぞ」
「わぁ……」
六花は目を輝かせていた。
高級レストランへ連れて行ったわけでもない。
数百円のパスタだ。
それなのに。
本当に嬉しそうだった。
その反応を見て、
なぜか少しだけ得した気分になる。
翼がとんかつ定食を置く。
碧も天津飯を置く。
ようやく全員の料理が揃った。
ところが。
誰も食べ始めない。
理由は簡単だった。
六花が動かない。
俺は首を傾げる。
「どうした?」
六花は返事をしない。
代わりに。
じーっと。
俺のラーメンを見つめていた。
本当にじーっと。
凝視している。
「……何?」
思わず聞く。
六花は我に返ったように瞬きをした。
「いえ」
そして少し恥ずかしそうに言う。
「本物を初めて見ました」
沈黙。
翼が箸を落とした。
碧が固まった。
俺も固まった。
「ラーメンを?」
「はい」
「テレビとかでは?」
「あります」
「食ったことは?」
「ありません」
「一回も?」
「一回も」
六花は平然と答える。
俺たちは顔を見合わせた。
そして同時に思う。
このお嬢様。
想像していたよりずっと重症かもしれない。
【side 蓮 fin】
俺たちはある結論に達していた。
六花に一人で注文させるのは無理だ。
最初は社会勉強のつもりだった。
自分で店を選んで。
自分で注文して。
自分で会計して。
自分で料理を運ぶ。
普通の人間なら何の問題もない。
しかし。
「先にお代金を払うんですか?」
とか。
「席は予約しなくてもよろしいのですか?」
とか。
「お料理を持ったまま歩くんですか?」
とか。
本気で聞いてくる。
冗談ではない。
全部本気だ。
翼も途中から頭を抱えていた。
「こいつ本当に十五年間どうやって生きてきたんだ」
俺も知りたい。
碧は碧で、
「天然記念物」
とか失礼なことを言っていた。
結局。
六花には好き嫌いだけ聞いて、
じゃんけんで負けた奴が六花の分も買ってくることになった。
「では、じゃんけんをするのですね」
なぜか六花だけ少し楽しそうだった。
そして。
負けた。
俺が。
「よし」
翼が満足そうに言う。
「任せた」
「頑張って」
碧まで言う。
絶対こいつら最初から俺に押し付ける気だっただろ。
六花は申し訳なさそうにこちらを見ていた。
「ご、ごめんなさい」
「お前のせいじゃねぇよ」
実際そうだった。
俺は立ち上がりながら聞く。
「嫌いなもんある?」
六花は少し考えた。
「特にはありません」
「アレルギーは?」
「ありません」
「じゃあ適当に選ぶぞ」
「はい」
六花は素直に頷いた。
その返事を聞きながら俺は店を回る。
最初に頭へ浮かんだのはラーメンだった。
俺自身が食べたいから。
でも。
やめた。
六花がラーメン食ってる姿が全く想像できない。
ハンバーガーも無理そうだ。
かぶりつく六花。
想像できない。
牛丼も違う。
刺激が強そうだ。
結局。
一番無難そうなパスタにした。
これなら失敗しないだろう。
俺はラーメン。
翼はとんかつ定食。
碧は天津飯。
それぞれ料理を受け取り、
トレーを持って席へ戻る。
遠くから六花の姿が見えた。
執事とボディーガードに囲まれている。
その光景だけ見ると、
どこかの国のお姫様みたいだった。
いや。
実際かなり近いのかもしれない。
しかし。
六花はそんな周囲のことなど気にせず、
フードコートを見回していた。
子供みたいに。
好奇心丸出しで。
なんというか。
危機感がない。
俺たちが席へ近付く。
「買ってきたぞ」
六花の顔がぱっと明るくなった。
「ありがとうございます!」
その笑顔に少しだけ驚く。
こんなことでここまで喜ぶのか。
俺は六花の前へパスタを置く。
「どうぞ」
「わぁ……」
六花は目を輝かせていた。
高級レストランへ連れて行ったわけでもない。
数百円のパスタだ。
それなのに。
本当に嬉しそうだった。
その反応を見て、
なぜか少しだけ得した気分になる。
翼がとんかつ定食を置く。
碧も天津飯を置く。
ようやく全員の料理が揃った。
ところが。
誰も食べ始めない。
理由は簡単だった。
六花が動かない。
俺は首を傾げる。
「どうした?」
六花は返事をしない。
代わりに。
じーっと。
俺のラーメンを見つめていた。
本当にじーっと。
凝視している。
「……何?」
思わず聞く。
六花は我に返ったように瞬きをした。
「いえ」
そして少し恥ずかしそうに言う。
「本物を初めて見ました」
沈黙。
翼が箸を落とした。
碧が固まった。
俺も固まった。
「ラーメンを?」
「はい」
「テレビとかでは?」
「あります」
「食ったことは?」
「ありません」
「一回も?」
「一回も」
六花は平然と答える。
俺たちは顔を見合わせた。
そして同時に思う。
このお嬢様。
想像していたよりずっと重症かもしれない。
【side 蓮 fin】
