財閥令嬢の私が、三つ子の不良御曹司に世界を教えられるなんて

将来、名家へ嫁ぐため。

西園寺家に相応しい淑女になるため。

西園寺家の価値をさらに高めるため。

お父様がそう決めた。

私がまだ幼く、自分の将来について何も分からない頃から決められていた人生だった。

もちろん私は父に愛されていないわけではない、と信じている。

けれど父が見ているのは、娘の幸せではなく、西園寺家の娘としての価値なのだと感じることがあった。

私は時々考える。

もし私がお兄様たちみたいに男だったら。

もし私が西園寺家の後継者だったら。

男尊女卑が根深く残る政財界において、父は違う期待を私に抱いていたのだろうか。

そんなことを考えても仕方がないのに、今日ばかりは頭の中から消えてくれなかった。


英語のレッスン。

先生が発音を訂正する。

私はぼんやりしていて聞き逃した。

「お嬢様」

少し厳しい声が飛ぶ。

「もう一度お願いします」

私は慌てて言い直した。

しかし今度は文法を間違えた。

先生の眉間に皺が寄る。

「集中してください」

「ごめんなさい」

そう答えながらも、頭の中には陽菜の言葉が浮かんでいた。

『絶対気に入ると思う!』

楽しそうだったな。

本当に。


フランス語のレッスンでも失敗した。

スペイン語でも失敗した。

バイオリンでは音を外した。

テニスではボールを打ち損ねた。

普段ならあり得ないような初歩的なミスを何度も繰り返してしまった。

その度に先生たちは顔を曇らせる。

そして決まって同じことを言った。

「もっと集中なさってください」

「それでは困ります」

「西園寺家のお嬢様なのですから」

西園寺家のお嬢様。

今日だけで何度聞いただろう。

学校でも。

校門でも。

屋敷でも。

みんなその言葉を使う。

まるで私自身よりも、その肩書きの方が大事であるかのように。