財閥令嬢の私が、三つ子の不良御曹司に世界を教えられるなんて

道明寺雅臣は、自室の窓から庭園を眺めながら静かに考え込んでいた。

西園寺六花が道明寺家へ来てから三日。

たった三日だった。

しかし、その短い期間だけでも彼の中にあった六花への認識は大きく変わっていた。

雅臣は裕作と長い付き合いだった。

若い頃から共に財界を渡り歩き、時には協力し、時には競争しながら現在の地位を築いてきた。

だから裕作がどんな人間なのかも知っている。

合理主義者。

結果主義者。

そして何より家の利益を最優先する男。

娘であろうと息子であろうと、その価値を西園寺家への貢献度で測るような人間だった。

過去に何度か酒席で六花の話題になったこともある。

その時の裕作は平然と言っていた。

「娘は良い駒になる」

と。

雅臣は眉をひそめたものの、強く否定はしなかった。

財閥の世界では珍しい価値観ではなかったからだ。

そして裕作は時折こうも言った。

「六花は反抗すると手がかかる」

「躾けるのも大変だ」

「何度言っても分からない時は叩くしかない」

雅臣はその言葉を聞いても深く追及しなかった。

むしろ心のどこかでは納得していた。

西園寺家の一人娘。

莫大な資産。

過剰な愛情。

何不自由ない生活。

そんな環境で育った令嬢ならば、

きっと高慢で我儘で、

自分の思い通りにならなければ癇癪を起こすような少女なのだろう。

多少厳しく育てなければならないのかもしれない。

雅臣はそう考えていた。

少なくとも三日前までは。


しかし。

現実は全く違った。

六花は誰に対しても丁寧だった。

使用人にも。

庭師にも。

運転手にも。

掃除係にも。

道明寺家の使用人たちは最初こそ緊張していた。

西園寺家の令嬢だからだ。

ところが。

六花は自分でお茶を淹れようとして火傷しかけたり。

道に迷って庭園を三周したり。

猫を見つけて追いかけたり。

どちらかと言えば世間知らずで。

少し抜けていて。

そして驚くほど素直だった。

使用人に横柄な態度を取ることもない。

理不尽な命令もしない。

感謝の言葉も忘れない。

雅臣は拍子抜けした。


これのどこが高慢な令嬢なのだろう。

さらに驚いたのは、

六花が自分の息子たちに向ける態度だった。

本来ならば政略結婚の候補である。

気位の高い令嬢なら、

自分から近づくことなどないだろう。

ところが六花は違う。

朝食では自分から話しかける。

庭園で会えば挨拶する。

共通の話題を探そうとする。

明らかに努力していた。

それなのに。

翼は冷たい。

蓮は興味が薄い。

碧は無反応。

特に翼など、

わざわざ棘のある言葉まで投げている。

雅臣はその様子を何度も見ていた。

六花は笑顔を作る。

傷ついても笑う。

悲しくても笑う。

だが。

時々その笑顔が崩れそうになっていることに雅臣は気付いていた。

その姿を見た時。

雅臣はふと思った。

もしこの子が本当に裕作の言うような我儘な令嬢なら、

とっくに泣き喚いている。

怒鳴っている。

帰ると言っている。

しかし六花はそうしない。

ただ頑張っている。

父親に命じられたから。

それだけの理由で。

雅臣は小さくため息を吐いた。



可哀想に。



初めてそう思った。

そして同時に。

自分は間違っていたとも思った。

裕作の話だけを聞いて、

会ったこともない娘を勝手に決めつけていた。

実際に会ってみれば。

六花は暴力で矯正されるような子ではない。

むしろ、暴力など受ける理由がどこにも見当たらなかった。

雅臣は窓から目を離した。

そして決める。

少なくとも。

この屋敷にいる間だけは。

自分が味方になろう。

あの子には味方が必要だ。

そう思った。

そして三日目の朝。

雅臣は早速行動に移した。

朝食後。

リビングに六花と三兄弟を集める。

四人とも嫌な予感がしている顔だった。

雅臣は満面の笑みで言った。

「今日はみんなでショッピングモールへ行っておいで」

沈黙。

翼が眉をひそめる。

蓮が露骨に嫌そうな顔をする。

碧は無表情。

六花だけが首を傾げていた。

「ショッピングモール?」

雅臣は頷く。

実は六花も三子も似ている。

全員世間知らずなのだ。

買い物と言えば高級百貨店。

外食と言えば高級店。

一般家庭が利用するような施設に行った経験がほとんどない。

だからこそ、一度くらい行くべきだと思った。

社会勉強にもなる。

そして何より。

仲良くなるきっかけにもなる。

雅臣は財布から封筒を三つ取り出した。

そして息子たちへ渡す。

「六花さんに服でも買ってあげなさい」

「一人五万円ずつ」

翼が顔をしかめる。

蓮が驚く。

碧は封筒を見つめる。

そして六花は慌てた。

「そ、そんな」

雅臣は笑う。

「遠慮しなくていい」

その瞬間。

雅臣は気付かなかった。

この何気ない提案が、六花と三つ子の関係を大きく変える最初のきっかけになることを。