財閥令嬢の私が、三つ子の不良御曹司に世界を教えられるなんて

道明寺家の本邸は、西園寺邸に負けず劣らず巨大だった。

車が正門を抜けてから玄関へ到着するまでだけでも数分を要し、手入れの行き届いた庭園や噴水を眺めながら、六花は思わず窓の外へ目を向ける。

「……大きい」

思わず漏れた呟きに、隣に座る優斗が小さく笑った。

「西園寺家が言う台詞じゃないだろ」

「でも本当に大きいもの」

六花は素直に答える。

西園寺邸も十分大豪邸だ。

それでも、道明寺家にはまた違う圧迫感があった。

世界中で事業を展開する超巨大財閥。

その本拠地。

そう思うと少しだけ緊張する。

やがて車が玄関前で止まった。

執事が扉を開く。

六花は小さく深呼吸して車を降りた。

玄関ホールには既に何人かの使用人が並んでいた。

そして、その中央には一人の中年男性。

道明寺家当主。

道明寺雅臣。

「ようこそ、六花さん」

穏やかな笑みを浮かべながら六花を迎える。

六花は丁寧に一礼した。

「本日からお世話になります」

「そんなに緊張しなくていいよ」

雅臣は笑う。

「問題はうちの息子たちだからね」

その言葉に六花は少しだけ不安になった。

その時。

大階段の上から足音が聞こえてきた。

三人。

全く同じ顔。

だが雰囲気はまるで違う。

先頭を歩くのは黒髪の少年。

背筋が真っ直ぐ伸びている。

鋭い目。

落ち着いた佇まい。

翼だった。

その後ろには金髪の少年。

気怠そうな笑み。

ポケットに手を突っ込んだまま歩いている。

蓮。

最後は銀髪の少年。

眠そうな目。

無表情。

何を考えているのか全く分からない。

碧。

三人は階段を下りながら六花を見る。

そして。

それぞれ全く違う反応をした。

まず翼。

翼は六花を一瞥しただけだった。

「……ふーん」

それだけ。

特に興味もなさそうだった。

政略結婚候補。

それ以上でも以下でもない。

そんな目だった。

一方。

蓮は違った。

階段の途中で足を止める。

「え?」

思わず声が漏れる。

もう一度見る。

そしてもう一度見る。

(聞いてた話と違うんだけど)

蓮は内心かなり驚いていた。

もっと高飛車なお嬢様を想像していたのだ。

ブランド品で武装したような。

見下してくるような。

そんな令嬢を。

しかし目の前にいる少女は違う。

緊張したように立っている。

どこか小動物みたいだ。

(可愛いじゃん)

蓮は思わずそう思った。

もちろん顔には出さない。

そして最後。

碧。

碧はじっと六花を見る。

十秒。

二十秒。

三十秒。

全員が気まずくなった頃。

ようやく口を開いた。

「小さい」

沈黙。

六花が瞬きをする。

蓮が吹き出す。

翼が額を押さえる。

「お前な……」

蓮が呆れる。

碧は真顔だった。

「思ったより小さい」

「身長の話?」

蓮が聞く。

碧は首を傾げる。

「全部」

「何だよ全部って」

碧はそれ以上説明しなかった。

六花は何と返せばいいのか分からない。

すると雅臣が苦笑した。

「すまないね」

「い、いえ」

「碧は昔からこうなんだ」

その時。

翼が六花の前へ歩み出る。

「道明寺翼だ」

短い自己紹介。


「西園寺六花です」

「よろしく」


愛想はない。

だが失礼でもない。


次に蓮が近付いてくる。


「道明寺蓮」

にっと笑う。


「よろしく、お嬢様」


どこか人懐っこい。

初対面なのに距離が近い。


六花は少し戸惑いながらも会釈した。


そして最後に碧。

碧はしばらく六花を見つめた後、

ぽつりと呟いた。

「碧」

それだけだった。

「それ自己紹介?」

蓮が突っ込む。

碧は無視した。

六花は思わず小さく笑ってしまう。

すると碧が初めて少しだけ目を見開いた。


どうやら笑われるとは思っていなかったらしい。

そんな三人の様子を見ながら、六花は少しだけ肩の力を抜いた。

昨夜までは恐ろしい場所へ送り込まれる気分だった。

けれど。

少なくとも今のところ、

目の前にいる三人は想像していたほど怖い人たちではなさそうだった。