空に吹く、風の音を教えて。

川越駅から1時間もかからないうちに池袋駅に到着した。

先に行って都内在住組を先導してくれる和実ちゃんとの待ち合わせはサンシャインシティの入り口となっている。

果たしてこの人混みの中そこまできちんと辿り着けるのだろうか。

なんて四方をカラフルな人間に囲まれ縮こまることしかできない私とは裏腹に、聖地に足を踏み入れのびのびと羽を伸ばす少女がいる。


「実に3ヶ月ぶり!ただいま、池袋〜」


光莉ちゃんの大声に驚き、ベビーカーを押していたお母さんが心配そうに我が子を覗き込んだその一瞬を、私は見逃さなかった。


「オレも久しく来てないけど道は完璧に頭に入ってるからエスコートは任せて!」


こっちもノリノリだ。


「おっ!さっすがそーちゃん!頼りにしてます」


みつりんが人差し指で颯太の頬をツンツンすると、颯太は心から嬉しそうに微笑んだ。

こう素直だと普通に可愛い弟なんだけどな。

姉の私には高圧的っていうかなんというか。

やっぱり好きな人に対する態度は甘くなるってことか、と妙に納得した。

そんなやり取りを2人の半歩後ろから眺めながら1年に1回くるか来ないかの都会を珍しそうにキョロキョロし、歩き続けた。

10分くらい人に流され、なんとか約束の場所に辿り着いた。

制服姿じゃなくても、上品でいて可憐なその姿は目を凝らさなくても自然と視界に飛び込んでくる。

青空をそのまま映したかのような真っ青なワンピースが目を細めたくなるくらい眩しい。


「あっ!いたいた!おーい!なごみーん!」


光莉ちゃんが大きく手を振ると和実ちゃんも控えめに手を振りかえした。

和実ちゃんに気を取られて気づかなかったけど、彼女の隣には、男子2人が、いた。


「おっ、お待たせしましたぁ」


男子2人とは思ってなかったのか光莉ちゃんも声が裏返るほどに驚いている。


「男…しかも2人も」


颯太は私に目配せする。

私だって聞いてないし。

知らなかったし。

和実ちゃんが普通に男子と仲良くしてるのが想像出来なくて、予想外だった。

てっきりあと1人は仲良しの女の子かと。

でもそれじゃあ彼が1人になるから…。

それで?

と、考えていても仕方がないので、意識が遥か彼方に飛んでいる間に始まっていた自己紹介に混ざってみる。

私はいつも人見知り発動のため、こういう時ワンテンポ遅れがちになってしまう。

心の中で反省し、気を取り直して初見の男子の方に耳を傾ける。


「初めまして。昊透と平沢さんと同じクラスで仲良くさせてもらっている月雲理世(つくもあやせ)です。今日は一日よろしくね」

「しっ、ししっくよろ〜。わ、わたくしは、くっ、倉石、みみっ、光、莉でぇす。よろしくぅ」


ん?

なんか光莉ちゃん様子がおかしい?

しきりにこっちを見てくる。

無理無理無理無理…みたいに首を真横に振ってるし。

え?

いや、まさか。

まさか、そんなわけ…。


「初めまして。オレは川越第三中3年5組でクラス委員長、並びにバスケ部主将、水泳部副部長を務めていて、ポンコツ風花の弟をこなしている大天才様の保泉颯太です!今日一日と言わず、今後ともどうぞよろしくお願いいたします」


ポ、ポンコツ風花…?!

それはさすがに酷くない?

姉としての威厳のため、名誉回復のため、何か言ってやらないと…。

なんて思っていると、彼の肩が揺れ出した。


「…あははっ!ははははっ!」


…あ。

笑った。

久しぶりだ、この笑顔。

実に6年ぶり。

あの夏以来だ。


「な、なんですか?」


颯太が食ってかかる。


「さすがほずみんの弟だなぁって思って」

「ほ、ほずみん?」

「あぁ、ごめんごめん。颯太くんのお姉さんのこと昔そう呼んでて。つい出ちゃった。あっはは!」


ツボに入ってしまったらしく、お腹を抱えて笑い転げている。

懐かしいあだ名で呼ばれた張本人はというと、こっちはこっちで顔から火が出そうなほどに恥ずかしいんだけど、場の流れ的に私の番だからと口を切った。


「保泉風花です。弟が変なことばかり言ってすみません。厨二病なんです…」

「は?誰が厨二病って…!」


颯太が私を睨みつけたところで制止が入った。


「と、とりあえず行こっか。予約の時間そろそろだし」

「あ、ほんとだ。じゃあ、みんな行こう」

「よぉし!レッツゴー!」


光莉ちゃんが異様なテンションのまま真星学園組に着いていく。

その後ろをピッタリと颯太が張りつき、私も後に続いた。

後から知ったことなんだけど、どうやら生徒会役員らしい月雲くんと和実ちゃんのエスコートのお陰で私たちは時間ピッタリに水族館に入館出来たのだった。