空に吹く、風の音を教えて。

光莉ちゃんがよくオタクグッズの開封式?とやらを行うイタリアンファミレスの一角に私たちは案内された。

夕飯を済ませて来たなんて言えばお母さんがガッカリするだろうから、私はドリンクバーとプリンだけでしのぐことにした。

対する光莉ちゃんは当たり前といったようにサラダにスープ、メインのパスタまで注文。

和実ちゃんもまた然りで夕飯にすると言ってフルコース頼んでいた。

これでは私が惨めに見えてくるけど、昨日あれから全く持って食欲がないから何の問題もない。

光莉ちゃんがしきりに少し分けようかと申し出てくれるのだけれど、それよりも何よりもここから早く出たかった。

2人が食べ進めるのをオレンジジュースをちびちび飲みながら眺めていると、和実ちゃんがこちらに視線を投げかけて来た。

いよいよ本題か。

私はストローから口を離した。


「昊透くんのことなんだけど」

「ごくり」


光莉ちゃんがわざとらしく喉を鳴らす。

というよりもう発声してしまっている。

そんな光莉ちゃんに内心動揺させられながらも私は平静を装い、和実ちゃんのスッとした鼻先を見つめた。


「実は同じクラスなんだ。私は中等部から真星なんだけど昊透くんは高等部から入ったんだ。高校に上がるタイミングでお父さんの転勤が決まったから真星を受けたって聞いたよ」

「ってかさ、真星ってすごく頭良いとこだよね?ウチらみたいな…て言っては風花に失礼か。バカはウチだけだった!あっはは!ままま、とにかくそんなインテリのとこに通ってるなんて2人共すごいね」

「そんなことないよ。早いうちから目標が決まってたから必然と目指しただけで…」

「うおー、やっぱデキる人は違うわぁ!」


それはおいといて、と脱線しかけた話を和実ちゃんがきちんと戻す。

なんていうか…

変わったなぁ、和実ちゃん。

なんて思いながら話の先に耳を立てる。


「昊透くんともう一回会ってみる?捜してるってことは話したいことあるんだよね?」

「そうそう。話したいことあるんだよね、風ちん?」


時効だからもういいよ、と言いたい気持ちを必死に押し殺し、ここまで来ちゃったんだからちゃんとしなきゃと私はテーブルの下で軽く太ももを叩いた。


「ちょっと…聞きたいことがあって。転校前に聞ければ良かったんだけど」


あの日、来なかったから。

そっちから約束してきたくせに。

一方的すぎるよ、ほんと。

というのも飲み込んで。


「なら、夏休みに会おうよ。ちょうど水族館に行こうかって話してたところだったんだ」

「え?ちょ、ちょい待ちぃ。ふ、2人ってそういう関係?」

「ち、ちちっ、違うよ!もう一人来る予定だし」

「なーんだ、てっきりそういうことかと。でも、なーんか怪しいなぁ?」


光莉ちゃんがニヤリと微笑みながら和実ちゃんを見る。

和実ちゃん…

やっぱり…。

ほんのり頬が赤いし、何より耳が真っ赤なんだよね。

私から見ても、そう、だと思う。

バレバレだよ。

だとしたらきっと…

あの時からかな。

あの、時…。


「風ちん?ちょっと!聞いてる?」

「え?あ、ごめん。何?」

「もぉ、自分のことなのにぼーっとし過ぎ!だーかーら、水族館に行く日8日でいい?」


私は慌ててスマホのスケジュールを確認した。

とはいっても、なんにも予定はないんだけど。

家に居ても弟のうるさいギターの音を聞くだけだし、どこかに出かけられるならいいか。


「うん、いいよ」

「ってことだから、よろしくね、なごみん!」

「な、なな、なごみん?」


和実ちゃん、声がひっくり返っちゃった。

そりゃそうだよね。

光莉ちゃんの距離の詰め方エグいから。

私も最初はビックリしたよ。

去年、入学して早々人見知りを発動させ、いわゆるぼっちになってしまい、孤独のランチタイムを過ごし抜こうとしていたら急に肩をドンって叩かれて、風ちんなんて珍妙なあだ名で呼ばれるんだもん。

それから一気に距離を詰められて仲良くなって、今に至るわけだけど。

…ぼっち、かぁ。

必然的に和実ちゃんを見てしまう。

ぼっち、だったんだよね和実ちゃんも。

それを救ったのが勇敢なヒーローで。

少女マンガによくある展開。

結末は見えている。

でも、そのサイドストーリーなら少し語ってもいいよね。

その語り手が私ということで。

そういうことで。


「じゃあ、8月8日楽しみにしてるね」


和実ちゃんからそう言ってその日は解散となった。

それから数日間どうにかこうにかこのソワソワした気持ちを紛らわそうとしながらも失敗し、私はXデーを迎えることになったのだった。