空に吹く、風の音を教えて。

反射的に目を瞑る。

身体が後ろに行って倒れる…

はず、だよね?

あれ?


「ほんと、どんくさ」


聞き覚えのある声が頭上から降って来てハッと目を見開いた。

私の背中は固い胸にがっつりと触れていて

華奢な白い手首は私より一回り大きい手に掴まれていた。


「いつまで体重かけてくんの?重いんだけど」

「えっ…あ、ごめんなさい」


体重重いって言われて一瞬ピキンとしたけど、助けてもらった手前文句も言えず、私は急いで体勢を立て直した。

踊り場まで上り、後ろから着いてきてくれた彼にお礼を言おうと振り返ると


「なんで、笑ってるの?」


思わず思っていたことをそのまま呟いてしまった。

しまったと思い咄嗟に口をつぐんでも時既に遅し。

その鋭い視線にロックオンされていた。


「保泉さんてさ、いっつもそんなんだよね。なんか、ウケる。滑稽で」

「こ、滑稽?」

「周りばっか見て自分が見えてない。言いたいことがあっても飲み込んで。言ったら言ったで後悔して口結んで、以降何も言わなくなる。その行動原理、分かる?」


質問されたから、無い頭で一応考えてみて、やっぱり分からなくて。

仕方なく答える。


「分かりません」

「だろうね。だから、親切なオレが教えてあげるよ」


まだまだ残暑が猛威を奮っているというのに、半袖ジャージから伸びた腕が一気に毛羽立った。


「その全て、人に嫌われたくないって気持ちの現れだから。無意識にそうしてる。昔からの心のクセが染みついてるって感じ。オレ、そういうの見てるとイラつくんだよね。だからさ、やめてもらえる?」


自分の見て見ぬ振りして来た最大の弱点をつかれ、私は凍りついたように動けなくなった。

力無くその場に座り込む。

身体を酷使したからじゃない。

向き合ってこなかったから余計に深く傷ついただけ。

悪いのは、私だけ。

目の前の彼を恨んではいけない。


…って、

なんで?

どうして私の前に。


「1人で立てそうにないなら…他人に、頼れよ」

「え?」


驚きすぎてじっと見つめてしまうと、弥代くんが先に目を逸らした。


「とにかくオレの神経を逆撫ですることはやめて。…それだけ」

「あ、うん」


そう言い残すと、さっきとは打って変わってひょいひょいと階段を2段飛ばしで駆け上がっていってしまった。


「変な、人…」


けど、きっと、

悪い人ではないんだろうな。

口調はほんとにトゲトゲしてて、初めて真っ向から浴びたからだいぶ深く刺さってしまったけど、

でも、言葉に嘘がないからこそ信じられるっていうか。

…信じて、みようかな。

なんか、私より私の解像度高いのが気になるけど。

なんで、なんだろう?

謎はあるけど、

さっき私の胸を射った、あの言葉に嘘はないと思うから。

そう思ったら、少しだけ胸が軽くなった気がした。

夏休みに吸い込んでさらに膨らんだ灰色のガスを孕んだ肺がほんのちょっと澄んだ。

ガラガラに開けられた窓ガラスの向こうから吹いて来る風はまだベタつくけど、

私の中に変化をもたらす新しい風のように思えた。